2019.04.26

EMA症例94:2月番外編解説

2月症例の解説です。皆さん、たくさんのご回答ありがとうございました。

60名の方にご回答いただき、50%が救急専門医、30%程度が初期研修医から専攻医、残りは内科系医師、集中治療医、小児科医、循環器内科医、看護師の方々でした。

看護師の方にもご回答いただけたのは大変嬉しかったです。

今月の番外編は、いかがだったでしょうか。

深夜に、自身がトップを務める救命救急センターで停電が発生し、その時点でどのように救命センター、そして院内の対応をするか?というものでした。

↓ 番外編を見ていない方は、こちらからどうぞ ↓

http://www.emalliance.org/education/case/shorei94

<災害のスイッチを入れる>

災害において、最も難しいことはなんでしょうか?

実は、「災害のスイッチを入れる」ことが一番難しいことです。

災害教育コースでも強調されていることですが、需要が資源(人員や資機材など)の許容を超えた(超えることが予想される)時に、災害への対応に切り替えなくてはなりません。

今回のように、本来1分以内に切り替わるはずの非常用電源が作動しなければ、人工呼吸器などの医療機器の代替などの対応が必要になります。また、深夜という医療資源(医師・看護師)が少ない状況であれば、容易に需要が資源を超えるため「院内の“災害”」としての対応に切り替えなくてはなりません。決して、院外の大規模災害だけに対応するのが「災害対応」ではありません。

     (図1 前橋赤十字病院における「災害のスイッチ」の入れ方)

では、災害対応にするか判断がしにくい時はどうすればいいの?という疑問も出てきます。1つの方法として、私の所属施設である前橋赤十字病院での方法をご紹介します(図1)。少しでも「災害対応」が必要かも、という情報(第一報)が入った際は、救急科医師(当直ER医)・看護師長(当直看護師長)・事務員(当直事務員)での暫定対策チーム(情報収集チーム)をすぐに立ち上げ、情報収集・共有、時系列での記録を開始します。チームを立ち上げて数分以内に、災害対策本部を設置するかなどの本格的な災害対応に切り替えるかを決定します。また、判断のつかないうちに10分間が経過した場合は、自動的に災害対応に切り替え、「災害対策本部設置」するという決まりもあります。ここでのポイントは、早めの段階で情報収集チームを立ち上げるということです。小さいチームを作るというスイッチは押しやすいため、局地災害や院内災害などスピードが必要な場合でも非常に有用です。普段の救急医療での対応が可能であれば、チームを解散すればOKです。この立ち上げの早さが、災害時の初動の早さにつながります。

Point① 需要と供給の不均衡がある時に「災害のスイッチ」を

<7つの基本原則『CSCATTT』>

まずは、設問1の皆さんの回答を見ていきましょう!

設問1:救命救急センターの現時点のトップとして「災害発生」を宣言しました。まず、何を行いますか?

皆さんの回答の割合は以下の通りでした。

皆さんもご存知だとは思いますが、MIMMS(Major Incident Medical Management and Support)で提唱されている大規模災害発生時の7つの基本原則『CSCATTT』が非常に重要で、全ての災害の初期対応に共通します。

CSCAは医療管理項目、TTTは医療支援項目と呼ばれ、TTTを行う前にCSCAを確立することが重要であると強調されています。例えば、最高のオーケストラのメンバーが大勢揃っていても、彼らがその能力を最大限発揮して最高の演奏をするには「指揮者」が必要ですよね!優秀なドクターや経験豊富なナース、コメディカルが大勢集まっても、それを「指揮」する人がいて、誰が誰の指示を聞いてという「統制」がとれなければ、そのチームは最大限の能力を発揮できません!だから、スムーズなTTTのためにもCSCAが大事なのです!

<組織図を意識した動きが大切!>

設問2:情報収集後に電気復旧に10分程度要することが分かり、ERの患者の対応後に、あなたは入院患者が安全かの確認が必要と思いました。誰にどのような情報をどんな手段で収集してもらうように依頼しますか?

皆さんの回答をまとめると、以下のようになりました。

・当直師長宛てに人工呼吸器患者の有無を連絡するように全館放送する

・各病棟看護師が当直師長に被災状況や患者重症度、医療機器など報告

・トリアージタグを使用して情報を収集する

・当直師長自ら巡回してもらう

・事務方とER看護師が各病棟を回り情報を集める

・事務員や研修医にメッセンジャーになってもらう

・病棟看護師に紙ベース(被災状況報告シート)で報告してもらう

・連絡手段は業務用携帯電話もしくはPHS

・各病棟で患者の安全確認後、病棟代表者が集合場所に参集し状況報告

皆さんが情報収集したい内容は、ほぼ同じで「病棟の被災状況や入院患者情報、医療機器の状況など」でしたが、ただ、情報収集の仕方については色々な意見がありました。

そこで大切になってくるのが、CSCAの最初の部分のCommand & Controlでの組織図です。病院での災害対応立ち上げ時には、Hospital MIMMSで提唱されている折りたたみ可能な階層構造(コラプシブル・ヒエラルキー)の考え方が非常に役立ちます。

災害時の病院の役割は大きく①診療組織、②看護組織、③病院管理組織の3つに分類できます(図2)。病院統括者は診療組織も統括しますが、①診療組織のトップとして上級救急医(救急科部長)、その下に上級内科医、上級外科医、上級集中治療医などが続き、②看護組織のトップである上級看護師(看護部長)の下には、ER上級看護師やICU上級看護師、手術室上級看護師、病棟上級看護師などが続きます。

ただ、夜勤などでの初動は、いつものエライ人たちではなく、(階層構造を折りたたんで)救急診療をしていた現場の私たちが病院長代理として、病院全体の指揮をとりながら、上級救急医の救急科部長代理として現場の指揮もとらなければならないのです!!救急医を目指すみなさん、心の準備はできていますか??今、この役割分担を自分の現場に当てはめて具体的にイメージしてみてください! 私たちと同じように、当直看護師長も看護部長の代理としての役割、当直事務員は事務部長の代理としての病院を守る役割があります。この組織図の中でそれぞれが役割を果たしていくため、指揮命令を行う際にはどの「役職」からどの組織系統の人に、何の管理を依頼するかを明確にしなければ混乱の元になります。

         (図2 災害時の暫定的な折りたたみ可能な階層構造)

もちろん、情報の伝え方も非常に重要で、CSCAのCommunicationで強調されるように情報伝達の不備が災害対応の失敗にもつながるため大切になってきます。それぞれの伝達手段に特徴があり、全館放送は「1vs多数」に伝えることもでき、被災状況報告シートなどは確実性があり記録として残すことができます。これらの伝達手段の特徴を踏まえて、確実かつ迅速な情報伝達をすることが求められます。 Point② 災害ではCSCAに基づいたマネージメントを!

    特に組織図作りは重要!

設問3:ICUは対応が必要であったがすぐに対応でき、病棟も問題はないと分かりましたが、この状況で追加での安全確認として誰に何を依頼しますか?

皆さんの回答をまとめると、以下のようになりました。

・エレベーターに人がいないかどうか、防災センターに問い合わせる(Self)

・当直看護師長に医療スタッフの傷病者がいないかを確認してもらう(Self)

・事務当直へ建物や設備、電気以外のライフラインを確認してもらう(Scene)

・転院を考慮して消防に救急車を依頼し、自家発電の復旧困難に備える(Scene)

・当直MEに医療機器の動作確認やバッテリー残量の確認を依頼する(Scene)

・冷蔵庫や検査機器(CTなど)、冷蔵必要な薬品とワクチンの確認をする(Scene)

・消防本部に周囲の状況の確認、近隣病院にも状況確認・連絡する(Scene)

・DMAT等の院内災害時の連絡網発動をする(Scene)

・病棟患者やER患者のさらなる安全確保を行う(Survivor)

・患者対応のために院内外の参集可能なスタッフの呼び出しする(Survivor)

この設問も先ほどのCSCAでのSafetyを“3S”でそれぞれ考えてみましょう。皆さんの回答も以下のように分けることができます。

 ① Self(自分):病院スタッフの安全確保

 ② Scene(現場):建物や設備、ライフラインの安全確保

 ③ Survivor(生存者):病棟患者やER患者のさらなる安全確保

また、Sceneを“病院”ではなく、“地域”と考えれば、危ない病院から安全な病院に移動させる「転院」も安全確保の1つと考えることもできます。

このようにどんな「災害」においても、CSCAを基にマネージメントしていくことで、あらゆる種類の災害に対処可能となります。いろいろなマネージメントをしないといけない場面で改めて考えてみてください!

<やっぱり準備が大切>

東日本大震災の際、岩手、宮城、福島の災害拠点病院が被災し、入院・外来の受け入れ制限など大きな影響が出たことをきっかけに、国は災害拠点病院の指定要件を見直し、通常時の約6割を供給できる自家発電機の設置などを要件に盛り込みました。また、近年重要視されているのが、被災時に医療を続けるための準備や行動をまとめた事業継続計画(BCP:business continuity plan)です。国は災害拠点病院に今年度中のBCP策定を義務づけ、一般の医療機関についても協力を呼びかけており、ますます災害への対応の必要性は高まっています。あなたの病院の災害マニュアルやBCPはどうなっていますか?停電時、非常用電源は何分でつきますか?水や電気は何日もちますか?いざという時の連絡先はどこを見ればわかりますか??是非、これを機にもう一度、院内災害マニュアルやBCPなどに目を通してみてください!!

Point③ 常に準備が大切!院内災害マニュアルやBCPの確認を!

<まとめ>

☆需要と供給の不均等があったら、災害のスイッチを!

☆災害ではCSCAに基づいたマネージメントを!

 特に組織図作りが重要!

☆常に準備が大切!院内災害マニュアルやBCPなど確認を!