2020.01.17

EMA症例9:10月症例解説

遅くなり申し訳ございませんでした。みなさま、本当にするどい考察で恐れ入りました。もう解説がいらないですね。。

追加検査所見
心電図:sinus tachycardia
L/D:WBC18000 Hb12.5 Hct39.3 Plt165000
Na135 Cl94 K6.4 UN47.5 Cre2.76 AST42 ALT31 LDH298 CK734

救急外来で診る腹痛は血管や腸管がやぶれた、詰まったといった病態(動脈解離、子宮外妊娠、心筋梗塞、消化管穿孔など)が緊急性も重症度も高く見逃せない疾患となります。特に高齢者では症状が非典型的になり、問診も曖昧、身体所見もはっきりしない、、など悩ましいことが多いので注意が必要です。

本症例では嘔気・嘔吐に加え、心窩部痛を認めることから神経系、電解質異常、泌尿器科系の疾患から来る嘔気は否定的と思われました。

レントゲンでは小腸ガスを認めたため、前医の診断通り小腸閉塞が考えられましたが、腹痛は持続的で、徐々に増悪傾向にあることや、最も頻度の高い癒着性の小腸閉塞の原因となる腹部手術歴は認めませんでした。

また、上記の採血結果のようにCKの上昇も見られたため絞扼性イレウスを疑い造影CTを施行したところ小腸の一部に造影効果の欠損が見られたため緊急手術となりました。

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その結果、腸間膜の欠損で回腸が絞扼され約40cmにわたり壊死しており、小腸切除を行いました。

嘔気のみならず、嘔吐、臍周囲の痛みを来した場合はまず消化器疾患を想起し、どれにも当てはまらないようであればDKAなどを考えることになると思います。明らかな小腸ガスがある場合は、small bowel obstruction(SBO)が考えられ、立位ではair-fluid levelが認められます。また、エコーでは小腸壁の浮腫とto-and-fro像やkey board signが特徴とされます。

SBOの原因として最も多いのは腹部手術後の癒着によるもので、全体の35%程度を占めるとも言われています。それに悪性腫瘍によるものが続き、次にヘルニアが挙げられます。中でも腸間膜裂孔、傍十二指腸、大網裂孔などに代表される内ヘルニアは、身体所見上同定が困難で、腹部所見もはっきりしない場合があることから特に高齢者で診断が遅れる傾向にあります。そのため手術歴のない患者の小腸閉塞で強い痛みを訴える時は腸管虚血やclosed loopを積極的に検索するのが勧められます。

一般的にSBOの治療は積極的な細胞外液による輸液になります。また、除圧のための胃管やイレウス管挿入も拡張が高度の時は勧められていますが腸管壊死を伴うものは腸管切除を要します。腸管壊死を同定するには造影CT撮像がgold standardとなっており、その他D-dimerによるものなどの報告もあります。

絞扼性イレウスは腸管壊死に陥る前に診断、治療を行うことが重要で壊死が進行した症例では死亡率が上昇すると言われており、適切な病歴と身体所見が重要で、また、何より鑑別に挙げてしっかりと検索に行くことが大事になる症例だと思いました。

Yo-jo先生のおっしゃる通り造影CTを使わずに外科的な適応があるかどうか判断する方法があるのかは私もはっきりしません。さすがにアシドーシスやCKの上昇などが顕著になってきた時はわかるのでしょうが、腸管を温存できる段階でどうしたら気付けるかは、難しい問題でしょうね。やはり皆様ご指摘頂いたように手術歴などのない高齢者で腹水なども認めたら、というところでしょうか。みなさまの工夫も教えていただけると幸いです。

ありがとうございました

参考文献
Sheedy SP et. al. CT of small-bowel ischemia associated with obstruction in emergency department patients: diagnostic performance evaluation. Radiology. 2006; 241: 729.
Gokhan Icoz et. al. Is D-dimer a Predictor of Strangulated Intestinal Hernia? World J Surg 2006; 30: 2165–2169