2020.01.17

EMA症例54:10月症例解説

 右下腿打撲を主訴に来院した今回のケース。筋区画内圧測定を行った結果、右下腿コンパートメント症候群と診断されました。みなさんへの質問は、他にどのような所見に注意するか?追加で行いたい検査についてお尋ねしました。多くの回答をお寄せいただきありがとうございます。

質問1の回答について
・その他の外傷に気をつけるという意見の他に
・5pや下肢PMS(脈・運動・知覚)の左右差、下腿筋肉の張りや筋の把握痛
・尿所見や動悸といった外傷から想起される合併症
・また、クラッシュ症候群による腎不全状態でのアロプリノール投与による皮膚症状に気を付けたい

という意見が集まりました。

質問2では
・採血(CK、AST、LDH、腎機能)
・尿検査
・心電図
・CT、下肢MRI
・FAST
・下肢静脈エコー
・筋区画内圧測定

という意見が出ています。

それでは解説に移りたいと思います。

四肢コンパートメント症候群
 四肢のコンパートメント症候群は長管骨に骨折が存在する場合が68.9%と多い1)のですが骨折以外の原因があることも知っておかねばなりません。明らかな外傷機転がなくても抗凝固薬の内服による出血が原因になったり2)、溶連菌による感染症(蜂窩織炎)3)、熱傷4)や電撃傷5)、蛇咬傷でもなることが報告されていますので、コンパートメント症候群は骨折や外傷以外でも生じ得るということはER医として知っておく必要があります(表1参照)。

表1 コンパートメント症候群の原因
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                                                  文献1より作成

四肢コンパートメント症候群の診断
 コンパートメント症候群はどのような症状の人に疑えばよいでしょう。いわゆる5Pは感度が低く6)、5Pの出現を待っていては誤った方向にもっていく可能性があります。5Pとはpallor(蒼白), pain out of proportion(強い痛み), pulseless(脈拍消失), paresthesia(知覚鈍麻), paralysis(麻痺)のことです。これらの症状が揃った段階では、すでに虚血による壊死が進行してしまい手遅れであるため、5Pが揃う前の診断を心がけることが大切です。

 外傷の見た目に不釣り合いな痛み=pain out of proportionは、十分な鎮痛薬でも改善しないほどの痛みのこともあり、コンパートメント症候群を疑うキッカケになります。また他動的に筋肉を収縮させると疼痛が増強するという所見も手がかりになります。今回の症例では足関節の底屈と背屈時の疼痛がヒントになっていました。とにかく疼痛が強い場合はコンパートメント症候群を疑うということを始めなければなりませんし、疑う場合はある程度の時間のモニタリングも重要です7)。ちなみに典型があれば非典型があり、疼痛のないコンパートメント症候群も報告があり8)、ERのExpertを目指す者としては知識として知っておきたいところです。

知覚鈍麻は最も敏感な徴候の1つと言われます。その機序はコンパートメント内圧の上昇によって神経組織が低酸素になり、最初の症状として知覚鈍麻が出現するため、と言われています。知覚鈍麻を調べる方法として2点弁別法(1cmの2点を弁別する)はより信頼性が高いと報告され9)、他にも音叉を256/秒で振動させ感覚低下を検知する方法があります10)痛みと知覚鈍麻がコンパートメント症候群を見破るのに重要となります。残りの3つ(蒼白、脈拍消失、麻痺)が出現してしまっているようでは、動脈閉塞が完成してしまった後の祭りであることを再度強調して覚えておきましょう。

筋区画内圧測定
 さてコンパートメント症候群を疑ったら患者のDispositionとしては、入院させて経過観察するか、即座に筋区画内圧測定をして手術の必要性を検討するかに分かれます。

 というのも当初はコンパートメント症候群に至っていなかったケースが、時間経過でコンパートメント症候群に至ることがあるためです。前述の5Pが揃っているようなら収縮期血圧を筋区画内圧が既に上回っている可能性があり、緊急手術になるかと思いますが、問題は如何にその前に見つけるかにあります。理論上は疑わしいなら全例に筋区画内圧測定をすればよいのですが、全例に侵襲性の高い検査を行えるわけではないのが教科書と実臨床の違いです。コンパートメント症候群で受傷から平均13時間で減張切開を行った群は後遺症を残さなかった7)という報告が、経過観察時間について報告したものの中で最短であったことから、12時間を限度に経過を診るというのも1つの方法になります。

 筋区画内圧の測定方法にはいくつかあり、専用のStryker Intracompartmental Pressure Monitor System®(図1)を使用したりWhitesides法11)(図2)、観血的動脈圧ラインモニター(図3)を使います。観血的動脈圧ラインモニターであれば、持続的に内圧をモニタリングできる点が他の方法と違って有用なところです。

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図1 Stryker Intracompartmental Pressure Monitor System®は筋肉に直接穿刺した圧を測定できる簡便な方法

                                              © Stryker 1998-2015

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図2 Whitesides法は三方活栓ごしにシリンジ、マノメーター(写真は水柱を使用。水銀柱でも可能だが水銀の使用は控えるべきという見解がある)、筋区画内を生食で結びつけ圧を測定する方法

                                                   文献12より

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図3 観血的動脈圧ラインモニターを使用した筋区画内測定の実際

 測定部位は、骨折があれば骨折部位からできるだけ5cm離れた場所で測定します。穿刺するのは各コンパートメントごとに行います。今回の症例のように下腿であれば前、後、深部後、外側コンパートメントの各区域を穿刺し測定します(図4)。下腿では筋区画内圧が上昇しやすいのは、本症例の受傷部位に一致する前コンパートメントです。

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図4 下腿コンパートメントの解剖

                                                    文献13より

 疼痛が強く筋緊張を引き起こしたり、疼痛の我慢できない成人や小児なら検査前に鎮痛を考慮します(すでに強い疼痛のために鎮痛薬や鎮静薬が使用されていることが多いですが)。
 生理的な筋区画内圧は成人では8mmHg前後14)、小児では10-15mmHg15)です。これが30mmHgを越えてくると組織灌流の悪化を示唆し16)、減張切開に踏み切る目安です。組織灌流は患者の血圧にも依存します16)から筋区画内圧≧30mmHgだけを基準にしていると不要な減張切開をすることにもなりえます。そのため拡張期血圧と筋区画内圧の関係性を⊿P=(拡張期血圧−筋区画内圧)として⊿P≧30mmHgは減張切開不要で後遺症もないとしている報告も複数あります17)
 最近では近赤外線を用いた装置で、パルスオキシメトリーの原理で組織の酸素化度合いを測定してコンパートメント症候群の有無を推定する、非侵襲的な方法が模索されているようです。

Disposition
 コンパートメント症候群の治療として知られる減張切開ですが、その適応には慎重な姿勢が求められます。切開部は開放創となるため感染症のリスクがあり、切開操作そのものが出血や神経損傷のリスクになります。整形外科にコンサルトしてディスカッションを深めることはER医として成長の場にもなります。受傷機転によっては、合併症としてクラッシュ症候群、横紋筋融解および続発する腎不全に注意する必要があるため、電解質やCPK、腎機能、尿検査および尿中ミオグロビンをフォローします。
 ケースによってはリスクを説明しても筋区画内圧測定を拒否され、やむなく帰宅させることがあります。そういう場合はRICEN(Rest, Icing, Compression, Elevation, NSAID)を指示するだけでなく、患側を固定して12時間以内に整形外科などでフォローできる体制をとるのが重要です。
 今回のケースではコンパートメント症候群の好発部位の受傷で、自発痛の他に他動痛や知覚鈍麻が出ていたことから、筋区画内圧測定が行われました。内圧は20~30mmHgであったため整形外科で内圧モニタリングを続けながら経過観察入院となっています。

まとめ
・5Pを待って診断したのでは遅きに失する
・見た目に不相応な痛みと知覚鈍麻でコンパートメント症候群を疑おう
・筋区画内圧測定で30mmHg以上か⊿P≧30mmHgを閾値に考えよう
・減張切開の適応とリスク、受傷に伴うその他の合併症を忘れずにフォロー

参考文献
1) McQueen MM, Gaston P, Court-Brown CM. Acute compartment syndrome. Who is at risk? J Bone Joint Surg Br. 2000 Mar;82(2):200-3.
2) Wang KL, Li SY, Chuang CL, Chen TW, Chen JY. Subfascial hematoma progressed to arm compartment syndrome due to a nontransposed brachiobasilic fistula. Am J Kidney Dis. 2006 Dec;48(6):990-2.
3) Kleshinski J, Bittar S, Wahlquist M, Ebraheim N, Duggan JM. Review of compartment syndrome due to group A streptococcal infection. Am J Med Sci. 2008 Sep;336(3):265-9.
4) Berky M, Novák J. [Bilateral anterior tibial compartment syndrome following burn of lower extremities (author's transl)]. Magy Traumatol Orthop Helyreallito Seb. 1980;23(1):44-7.
5) Sanford A, Gamelli RL. Lightning and thermal injuries. Handb Clin Neurol. 2014;120:981-6.
6) Ulmer T. The clinical diagnosis of compartment syndrome of the lower leg: are clinical findings predictive of the disorder? J Orthop Trauma. 2002 Sep;16(8):572-7.
7) McQueen MM, Christie J, Court-Brown CM. Acute compartment syndrome in tibial diaphyseal fractures. J Bone Joint Surg Br. 1996 Jan;78(1):95-8.
8) O'Sullivan MJ, Rice J, McGuinness AJ. Compartment syndrome without pain! Ir Med J. 2002 Jan;95(1):22.
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11) Whitesides TE Jr, Haney TC, Harada H, Holmes HE, Morimoto K. A simple method for tissue pressure determination. Arch Surg. 1975 Nov;110(11):1311-3.
12) Mishalov V.G., Chernyak V.A., Sopko O.I., The pathogenetic and clinical substantiation for using Tivortin in patients with ischaemia of lower extremities and multifocal atherosclerosis. The National Medical University named after O.O. Bogomolets, Department of Surgery No.4,Schovkovychna Str. 39/1, Kyiv
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15) Staudt, JM, Smeulders, MJ, and van der Horst, CM. Normal compartment pressures of the lower leg in children. J Bone Joint Surg Br. 2008; 90: 215–219
16) Mubarak, SJ, Owen, CA, Hargens, AR, Garetto, LP, and Akeson, WH. Acute compartment syndromes: diagnosis and treatment with the aid of the wick catheter. J Bone Joint Surg Am. 1978; 60: 1091–1095
17) von Keudell, Arvind G et al., Diagnosis and treatment of acute extremity compartment syndrome. The Lancet , Volume 386 , Issue 10000 , 1299 – 1310