EMA症例49: 5月症例解説
みなさま、たくさんのご意見をありがとうございました。
とても多くの回答を頂きみなさまの思考過程を知ることができて嬉しかったです。
まずは回答の集計を発表します。
病歴とレントゲンの時点で考えていただいた鑑別は
表のように虫垂炎が最も多く、急性腸炎、小腸閉塞、下部消化管穿孔が続く形でした。選択肢以外にも憩室炎を挙げてくださった方も多くいらっしゃいました。
鑑別と提示された病歴身体所見に関して合致するところ、合致しないところは素晴らしい解答が多く、紹介しきれないのが残念ですがみなさまの病歴や身体所見に対する深い造詣がうかがい知れます。
虫垂炎に関しては
●嘔吐(食思不振)と腹痛の順番
●4日間の経過にしては大人しい
●痛みが限局していない
●発熱がない
などを合致しない点に挙げて頂きました。
その他、アニサキスや腸閉塞などに対しても興味深い考察を頂いています。
続く検査としてはほぼ全員の方がCTを選択し、超音波を加えてくださった方も多くいました。
CTの公開後もしっかりみなさまにCTを読影頂きありがとうございます。
みなさまの挙げていただいた疾患は
上記の通りです。
その後のマネジメントはほとんどの方が緊急手術と外科コンサルトを選択し、緊急内視鏡が数名でした。
画像をよくご覧いただくと、回盲部から上行結腸が著明に拡張しており、ちょうど肝弯曲部あたりから肛門側は拡張が消えているのが分かります。
そこに腸管粘膜肥厚を伴った狭窄が疑われ、後日内視鏡から大腸がんの診断となりました。
診断:大腸閉塞(大腸がんによる)
小腸閉塞はよく経験する疾患だと思いますが大腸閉塞はそれほど多くはありません。大腸閉塞は機械的閉塞と麻痺性の閉塞に分類されますが今回は機械的閉塞のマネジメントに焦点を絞って解説したいと思います。
大腸閉塞の原因疾患を表にまとめます。
機械的な原因による大腸閉塞の症状は原因疾患によらず、便秘、腹部膨満感、腹痛を来すことが多く、腹痛は閉塞を乗り越えようとする小腸の蠕動亢進のため波のある痛みになることが多く見られます。
身体、画像所見ではガス、便、腸液の混じった内容物による腸管拡張が閉塞起点より口側で見られます。
治療に関しては“closed loopがあるか“で、ある程度の緊急性が決まってきます。ここで重要な点は大腸閉塞においてclosed loopの定義は小腸とは少し異なってくる点です。
大腸はバウヒン弁がある関係で、一箇所の閉塞があってもバウヒン弁が完全に機能している場合(competent ileocecal valve)はclosed loopとなることです。
こうした場合は内圧が上昇し腸管の虚血から壊死・穿孔をきたすこともあり危険です。回盲弁の機能が低下しているかどうかは緊急性の判断にも重要になります。
大腸閉塞をきたした場合閉塞部より口側の大腸が拡張するわけですが、解剖学的に盲腸が最も太くなるため内圧が高くなり多くの大腸閉塞は閉塞部位によらず回盲部に痛みを自覚することが多く見られます。また、圧痛も回盲部に認めます。
虫垂炎とあわない点はみなさまが挙げてくださった通りですが小腸閉塞と異なる点としては嘔吐があまり見られないことが多いとされます。
緊急性の判断は
●嘔吐がまったく見られない
●腹水貯留あり
●腹膜刺激症状の存在
●小腸拡張が画像でない
などが回盲弁の機能が保たれている、もしくは盲腸の内圧上昇が示唆される所見として挙げられています。
その逆に嘔吐があったり小腸拡張があったりすれば回盲弁の機能不全がありclosed loopの形成はないものとして少し待てることが多いです。
本症例では右下腹部に圧痛はありましたが反跳痛は認めず、画像上も小腸の拡張があったため待機的に内視鏡を行ってから治療方針の決定を行いました。
Take home message
●大腸閉塞は右下腹部痛を来すことが多い。
●閉塞箇所が一箇所でもclosed loopと判断される時がある。
●緊急性の判断は回盲弁の機能から判断する。
Hepatogastroenterology 2007; 76: 1098
Sabiston. textbook of surgery: section X Chapter 52 Large bowel obstruction