2020.01.17

EMA症例32:9月症例解説

みなさま
たくさんのご回答ありがとうございました。
非常に鋭いコメントが多くあり、大変参考になりました。

レントゲンをみて頂いた多くの方から気腫像の指摘があり、75%の方が胸部CTを施行すると解答されました。
CTの結果です

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診断
特発性縦隔気腫

転帰
本症例では過換気症候群と診断されていましたが、
・ 過換気症候群に至るような背景因子が乏しいこと
・ 発作的と思われていたが詳細に問診すると発作の間も息苦しさが持続していたこと
などが過換気症候群としては非典型的であり更なる評価が必要と思われました。
胸部単純レントゲンで気管影の側方に気腫像を認めたため胸部CTを施行し縦隔気腫の診断となりました。感染徴候はなく気管や食道の損傷を疑わせる病歴や所見を認めず血液検査では軽度の炎症反応を認めるのみであったため特発性縦隔気腫として疼痛管理のみで外来経過観察としました。翌日にかけて増悪は認めず7日後には症状が消失しておりました。

ウェブでのコメントでも
・精神的な原因による過換気なら症状が3日間も続くのはおかしい。
・3日にかけて続く呼吸苦は、observeできるものではない。
といったコメントを頂きました。

解説
特発性縦隔気腫とは誘因なく縦隔に空気が貯留した状態を指します
縦隔気腫の原因として医原性や術後性の変化のほか、外傷による気管支や食道の断裂、ガス産生菌による感染が挙げられていますが特発性縦隔気腫はそれらの原因を認めないものの総称です。その原因は、肺胞の破裂により漏れた空気が、圧勾配に従って肺門部や縦隔に流れてくるためと考えられていますが詳細はわかっていません。
発症率は明らかでなく30000-42000人に1人とされています。若年に多いとされていますが、症例報告が散見されるほか限られた数のcase seriesからの推察に留まっています。
その中できっかけとしては嘔吐や咳嗽の他、運動や排便など胸腔内圧の上昇を伴う行動が報告されていますがきっかけの認めないものも20%程度とする報告もあります。その他喫煙や喘息、phentermineがリスクとなる可能性も報告されています。
症状は胸痛と呼吸苦が最もおおく、皮下気腫や頸部腫脹が続きます。その他頚部痛や嚥下時痛も40%で認めるとされています。
特徴的な身体所見として、前傾姿勢で心拍に一致して低調な捻髪音が聴取されるHamman`s signが特徴とされますが、感度は12%程度と低く診断にはあまり役立たないかもしれません。
画像所見として本症例と同様に胸部単純レントゲンにおいて縦隔気腫像を同定するのが決め手となります。気腫は気管周囲の他にも、心臓周囲に認められることもあります。また、continuous diaphragm signと言われる縦隔に気腫が存在する時に透過性が亢進し左右の横隔膜が連続して一本に見える所見が得られることもあります。ただ、レントゲンで縦隔気腫が指摘されるのは70%弱とも言われ、確定診断にCTの撮像が必要なケースもあります。
治療はほとんどが保存的に行われ、安静や酸素投与で改善し、手術を要する症例はほぼ皆無とされており、再発も極めてまれと言われています。

本症例のPearls
・ 過換気症候群という病名は除外診断であり背景に疾患が潜んでいる可能性を考えるようにする
・ 長期間症状が残存している場合は特に注意する

参考文献
M. Caceres et al. Spontaneous pneumomediastinum: A comparative study and review of loterature. Ann Thorac Surg 2008; 86; 962-966
I. Macia. Spontaneous pneumomediastinum: 41 cases. Eur J Cardiothorac Surg; 2007; 31; 1110-1114.
M. Mohseni. Spontaneous pneumomediastinum. Int J Emerg Med; 200/8; 1; 229-230