2020.01.17

EMA症例3:4月症例解説

皆様、数多くのコメントありがとうございました。
今回の症例はアセトアミノフェン中毒でした。

薬物中毒の症例なので一般論を交えて解説します!

薬物加療摂取にの問診で重要な事は共通しておりMATTERSという語呂が便利です。
Medication  Amount
どのような薬をどれだけ摂取したのか。日本の救急病院では薬物の血中濃度が迅速に測定できる施設が限られているため、摂取した総量と症状から治療の判断を決定する必要があります。
アセトアミノフェン中毒は150mg/kg以上の摂取で肝障害を生じる可能性があると言われています。日本の市販薬は1錠あたりアセトアミノフェンを100mgから150mg含有している場合が多いのでBW(kg)錠以上飲んでいる時に中毒を疑うのが覚えやすいかも知れません。医薬品のカロナールは200mg錠が一般的なのでBW*3/4錠が目安となります。
しかしながら自殺企図の患者では薬剤内服歴が正確に聴取できないことも多くあります。
Time Taken
アセトアミノフェンの血中濃度は接種後1、2時間がピークとなりますが摂取後4時間はdistribution phaseと呼ばれ正確な濃度が判定できないため、血中濃度の測定は摂取から4時間待つことが通常です。
その後ノモグラムに従って治療方針を決定して行きます。ただ、アセトアミノフェン中毒は単回多量摂取だけでなく、治療用量を超える服用を繰り返した患者でも生じ、その場合はノモグラムは有用ではありません。
Emesis
特に小児などでは摂取した毒物を嘔吐することが多く、嘔吐があったかどうかは摂取総量を予想する上で重要となります。
Reason
急性中毒患者に合併する精神疾患はうつ病と境界型パーソナリティ障害が最も多く、自殺企図が多いためきっかけとなったイベントや既往歴なども含めての問診を家族も含めて行うことはその後の専門科受診のためにも重要です。
Signs Symptoms
Toxidoromeという造語が生まれたように服用した薬剤の種類により患者は様々な臨床症状を呈します。逆に、意識レベルの低下から内服した薬剤が不明であっても身体所見から服用薬剤をある程度推定することも可能です。
アセトアミノフェン中毒では症状の経過を4相に分けて考えることができます。
1相:数時間以内から48時間程度
食欲低下、悪心、嘔吐などの非特異的な症状が多く、重症度の判断は困難
2相:24時間から72時間
1相の症状が緩和し、右上腹部痛が出現することがある。血液検査では肝酵素の上昇が生じる。
3相:72時間から5日目
重症例では黄疸や出血傾向、低血糖など肝障害の症状が顕在化する。同時に数%の患者に尿細管壊死による腎不全を合併する。
4相:1週間程度
肝酵素などがピークアウトするが、重症例では持続的な悪化を来して死亡する例もある。

検査
検査は肝酵素、凝固系、腎機能の検査は基本として、血中濃度を測定できる施設もあると思います。Rumack & Matthew 及びSmilksteinのノモグラムが肝障害の可能性と予防的治療をするかの判断に有用で、4時間後の血中濃度が150μg/mlを超えていたら治療を要します。さらに、血中濃度と肝障害のリスクは相関することが知られており、200μg/ml以上になると60%で肝障害(AST>1000)、1%で腎不全、5%で死亡のリスクがあるとされ、300μg/ml以上では90%で肝障害を来すと言われます。
アセトアミノフェンの血中濃度が測定できない施設や、服用した量がはっきりしない場合はempiricalに次に述べるような治療を開始する事も多くあります。
本症例のように繰り返し服用に対するコンセンサスは確立されていませんが、10μg/ml以下で、ASTが50IU/L以下であれば治療により肝障害を呈した例はいなかったとする報告もあります。

治療
吸収の阻害は薬物加療摂取における治療の第一歩ですが胃洗浄なら1時間、活性炭なら1時間から4時間以内という摂取時間からの推奨があります。(Goldfrank P113)ただ、後述するように極めて有効な解毒薬のあるアセトアミノフェン中毒に施行する事は少ないかも知れません。
解毒薬としてNアセチルシステイン(NAC)があります。NACは体内で代謝されシステインとなり、これがアセトアミノフェンの代謝産物で細胞毒性のあるNアセチルpベンゾキノンイミンと結合する事により解毒作用を発揮します。
前出のノモグラムなどから治療適応とされた例には140mg/kgを投与し、それ以降は70mg/kgを4時間ごとに72時間内服する方法が一般的です。
NACによる治療は非常に有効性が高く、8時間以内に使用すれば、肝障害の発生予防に100%効果を示すとされます。従って、8時間以内血中濃度が測定できればノモグラムに当てはめて必要あればNACによる治療を行い、8時間以内に結果が出ないならすぐに治療を開始するのが現実的と思われます。

また、NACは非常ににおいがきつく(温泉?腐った卵?)経口だと内服困難な場合が多いのですが、皆様で内服させるにあたっての工夫などありますか?NGtubeなどから投与することが多いのですが、オススメの工夫などありましたら教えてください。
コメントお待ちしております

本症例ではASTが60であり、中毒情報センターと相談し、Nアセチルシステインを開始しました。

参考文献
Kennon J. Heard. Acetylcysteine for acetaminophen poisoning. NEJM 2008; 359: 285-292.
Daly FF, O`Malley GF, Heard K, et al. Prospective evaluation of repeated supratherapeutic acetaminophen ingestion. Ann Emerg Med. 2004; 44: 393-398.