2020.01.17

EMA症例29:6月症例解説

では、皆さんの回答を見てみましょう。

1)レントゲンの所見を述べてください。

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多くの方がfat pad sign陽性&骨折なしと答えられました。 上腕骨顆上骨折の回答も多くいただきました。画像が少々わかりにくく申し訳ございません。

2)追加の検査はしますか?

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多くの施設ではCTがありますので、その閾値は低いですね。また、骨折を認めたら近位の骨を評価することは大切です。


3)どのような処置を行いますか?

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一番多かったのはシーネ固定です。ギプス固定も見受けられましたが、骨折直後でギプス固定は行わないと今まで働いて来た病院の整形の先生に言われました。これは、新しい傾向なのでしょうか?


4)いつまでに何科を受診させますか?

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即整形コンサルトが半数以上を占めました。これは上腕骨顆上骨折を疑ったら正しいですね。

解説
レントゲンの読影は整形症例では必須ですね。アメリカにおいて最も訴訟の原因として多く挙げられたのが、骨折の見逃しです。
肘のレントゲンでは重要な所見がいくつかあるので、それを簡単に触れておきましょう。
Radiocapitellar Line(線1:橈骨の中心軸)を必ず見つけて、これが正・側位両方で上腕骨小頭(capitellum)を通ることを必ず確認。これが通らない場合は、橈骨骨頭の脱臼を意味するので要注意!またこれは肘がどんな角度でも成立する法則なので成立しないことを角度のせいにしない。

AP-pic

肘の側位では他に、Anterior Humeral Line(線2:上腕骨前面)が上腕骨小頭の中心1/3を通ることが重要であり、通らなかったら小児では上腕骨顆上骨折を疑います。

lateral-pic

またよく耳にするもので、Fat Pad Signがあります。正常でも少々のAnterior Fat Pad Sign(肘の腹側)は認めますが、これが帆船の帆のように大きい場合(Sail Sign)やPosterior Fat Pad Sign(背側)を認めたら異常であり、関節包内液体(骨折による血液・関節炎による炎症など)貯留を意味します。

fatpadpic

では、これらの法則を今回の症例のレントゲン写真に照らし合わせてみましょう。

骨を丁寧に見てもはっきりとした骨折線は見当たりません(これは放射線科医にも確認してもらいました)。まず、Radiocapitellar LineとAnterior Humeral Lineはともに保たれています。では、次にFat pad signを見てみましょう。Posterior fat padはなさそうですけど、Anterior fat padは大きく張り出している(= Sail sign)のが分かると思います。これは、この年齢群ではほとんどの場合に橈骨骨頭骨折を意味しています。

elbow1-w-circle

したがって、このように骨折が写っていなくても間接的所見から骨折を示唆する所見が得られることがあります。その意味でも整形のレントゲンでは骨以外に軟部組織にも十分注意を払う必要があります。

橈骨骨頭骨折は3タイプに分けられ、これによって治療が異なってきます。大雑把に説明しますと、Type1は転位を認めない骨折、Type2は転位を認める骨折、Type3は粉砕骨折となります。Type1と転位が2mm以下のType2は保存的治療のみでほとんどの場合予後良好です。それ以外のType2とType3は外科的治療が必要となってきます。

本症例の経過ですけど、Type1橈骨骨頭骨折ですのでとくにシーネ固定する必要はなく、三角巾を巻き、数日以内に動かせる範囲内での動きは許可して1週間以内に整形外科外来受診としました。経過はよく、後遺症なく生活しているとのことです。(もちろん、橈骨骨頭骨折と診断しかねる場合はシーネ固定で近日中に整形外科外来受診が基本ですね)

では、最後に肘の即位レントゲンでより分かりやすい画像を提示します(Type 2 橈骨骨頭骨折)。

antpost-fat-pad-w-lines

Pearls
- 肘のレントゲン読影では骨以外に、Fat pad sign, Radiocapitellar line, Anterior humeral lineを確認。
- 橈骨骨頭骨折Type1とType2の一部のマネージメントは、シーネ固定ではなく三角巾と早期の可動を許可。

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