2020.01.17

EMA症例27:4月症例解説

4月症例は低体温症について扱いました。すでにシーズンオフとなってきていますが今季の反省をし、さらには来季に向けて活かせるように、救急外来での基本的な対応法とControversialな部分とに分けて、皆さんの回答を参照しながら解説を行いたいと思います。

質問1は低体温症の原因について考えていただきました。回答では環境要因による偶発性、内因性疾患(敗血症、脳血管障害、内分泌疾患)による二次性のものを回答いただきました。中にはCO中毒や精神科疾患という回答もありました。

質問2は高K血症なく、その他血液ガス所見に問題ない深部体温27.4℃と重症低体温症のケースでの処置内容について回答いただきました。

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その他の中にはPCPSの準備、ビタミン投与、全部という回答もありました。まずはあまり侵襲性の高くないところから始めるというのが総意のようです。

質問3は低体温症の蘇生につき実際の現場でどのように対応しているか回答いただきました。

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現場では様々な要因が重なるために、それぞれのケースで判断が異なることもあるかと思います。低体温症の蘇生について後述しますが、しっかりとしたエビデンスのある方法は確立されておりません。そのため基本的なACLSの手順や、どこまで加温方法をとるか、蘇生中止の判断をどこでするかも回答が分かれました。

● 解説●

ポイント
#低体温症がVfを誘発しやすい状態にあることを知るべし
#最初に行う加温は濡れた衣服の脱衣と心得るべし
#原因検索を進めながら重症度に応じた侵襲性の加温法を選択すべし
#蘇生は現在のところBLS/ACLSに準じた方法が妥当
#蘇生後の復温を忘れずに!

低体温症の重症度から解説を始めたいと思います。体温は腋窩温ではなく直腸温や膀胱温、食道温などの深部体温(Core温度)によって測定します。よりCore温度を反映するのは食道>直腸>膀胱の順と言われています。分類は文献や教科書によって一定しないのですが、病院の中では深部体温を測定する方法があるため、次の分類法を紹介します。

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Mild(軽症)の低体温症は意識障害がなく歩行が可能であるため、これだけで来院されることは少ないかもしれません。Moderate(中等症)となると意識障害が出現し、徐脈・徐呼吸となりAfや心電図上のJ波が出ます。徐脈の程度と体温は線形の関係があると言われています。

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Severe(重症)となると意識状態はさらに悪化し、血圧低下やVf、心停止、呼吸停止が起こりえます。嚥下反射が減弱し肺炎のリスクが高まります。低体温では末梢血管の収縮により利尿が促されますがNa-Kポンプ機能不全でK排出が低下し高K血症となる危険があります。

jwave

心電図変化で有名なJ波はOsborn waveとも言われます。最初に報告したのはTomaszewskiで1938年。それを1953年に実験的に報告しVfに移行しやすいと指摘したのがOsbornです。J波は低体温症だけでなくSAHや高Ca血症、心筋虚血、敗血症、正常亜型で見ることができるため特異的な所見とは言えません。

●原因検索をしながら加温●

本当に偶発性であるのか原因検索を進めながら加温します。加温方法はそれぞれに侵襲度が異なるため症例ごとに適切な方法を選ぶことになります。注意点としてはその際に無闇に手足を擦ったり、体を動かしてはならないということです。After dropという言葉がよく知られていますが、これは手足や末梢を加温しているにも関わらずCore温度が低下することです。末梢血管が拡張することで低温の血液がCoreに還流、さらには相対的に循環血液量が減少し低血圧や心機能低下、Vfを起こしやすいというのです。

低体温時にVfを起こしやすいのは心筋やHis-Purkine線維が易刺激状態になっているためだと言われています。After dropという現象自体にはEvidenceが乏しい(Emerg Med,1997/Resuscitation,1996)と言われています。

本症例では2本目の輸液ルートを採っていたところ突然Vfになりました。来院後13分目のことです。

加温法でまず大切なのは濡れた衣服を脱がすことです。濡れた衣服によって体温は4-7℃/hourで低下すると言われています。いくつかの加温法の中で最も復温が早いのはPCPSで7-10℃/hourです。その次点が持続動静脈復温法Continuous Arteriovenous Rewarmingで大腿動脈から引いた血液を加温し大腿静脈に戻す方法で3-4℃/hourです。これらは侵襲性が高いこともあり30℃以下の重症例で推奨されています。

胸腔ドレーンを挿入しての開胸洗浄や透析は1-3℃/hourとなっています。救急外来や手術室でよく使用されるBair Hugger®は実感として0.4℃/hour前後ではないかと思いますが、データにばらつきがあるようです。

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加温輸液や胃・腹部・膀胱加温洗浄などはCoreとの接触容積が小さいため加温法としては一定しないと言われています。

● 低体温症の蘇生●

さて、話題は本症例のような低体温症の蘇生に移ります。蘇生後の低体温療法とは異なりますのでご注意ください。低体温時の蘇生が一般の蘇生と異なるのは神経学的予後が比較的良く、数時間の心停止からFull recoveryするという例が報告されていること、除細動の効果が乏しいこと、また代謝が低下しているために薬剤投与法について通常使用量では中毒域に達してしまうのではないかと議論が分かれていることが挙げられます。その後種々の報告や動物実験でのデータからAHA(American Heart Association)が推奨していた内容も2010年のガイドラインで変更になっていますので、その点について復習したいと思います。

BLS/ACLS基本戦略の変更点
・ 脈拍や呼吸を30〜45秒かけて徐脈や徐呼吸でないかを評価する(2005)➙遅れることなくCPRを開始する(2010)
・ 重症では除細動を1回だけ試みる(2005)➙再試行を延期する意義は不確定である。BLSのアルゴリズムが妥当である。(2010)
・ 重症では30℃になるまで薬剤は投与しない(2005)➙ACLSアルゴリズムの薬剤投与間隔を考慮するのは合理的(2010)
これらをまとめると基本的にはBLS/ACLSと同様に動いても妥当だということになりそうです。

低体温の心肺停止患者が来院したら、医師は蘇生努力をいつ中止すべきかの判断をしなければなりません。その蘇生努力の中止についてもいくつか言及がありますので紹介します。

・ 屋外で致死性の外傷を負っていたり、体が凍結して鼻や口が氷で閉塞されていたり胸骨圧迫ができない場合は、蘇生を行わなくて良い(2005)
・ 30℃以下の重症低体温症に対して気道確保とルート確保以上の治療を現場でするかは議論のあるところである(2005)
・ 血清Kの値が低ければ低酸素血症がCPAの原因ではなく低体温による可能性を示唆するため、復温するまで死亡判定すべきでない(2010)
そして32℃に復温するまで死亡診断してはならず、蘇生後も深部体温35℃までしっかりと復温することが大切です。

質問3ではこれらの未だにControversialな点についてお尋ねしたところ様々な意見が上がっています。CPRを行えばVfになりやすく、通常のアルゴリズムでいくとVfに対して除細動を行い、すぐにCPRを再開すればそのためにまたVfになってしまうこともあります。本当は脈も戻っていたのにCPRをしたためにVfを誘発して何度も除細動を繰り返さなければならないことも多々あります。ガイドラインで“除細動のあとに脈を30秒確認する”などあっても良いのかもしれませんが、Evidenceの確立は難しそうです。

補足:本文では薬剤投与間隔や除細動についてAHAのガイドラインについて言及しましたが、ERC(ヨーロッパ蘇生学会)のガイドラインでは30℃を越えるまでは薬剤投与を保留し、30℃を越えたら投与間隔を2倍にして行う。3回除細動後はその施行を遅らせる、と記載が異なることも付け加えておきます。

参考資料
1) Accidental Hypothermia: An Evidence-Based Approach, Emergency Medicine Practice,January 2009, Volume11, Number 1.
2) 2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Accidental Hypothermia
3) 2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Part 10.4: Hypothermia
4) European Resuscitation Council Guidelines for Resuscitation 2010