2020.01.17

EMA症例25:2月症例解説

若い女性の発熱初日、通常なら尿路感染症状がなく全身状態良好ならば、インフルエンザなどのウイルス感染症としてすぐに帰宅、としますよね。

ただし、今回は24週の妊婦さん、ということでもう少し気をつける事が増えます。
それではみなさんの回答を振り返ってみましょう。

質問1)方針は?

201302case01

(総回答数31名)

病歴などの追加聴取を選択された方は

普段の血圧、頭痛の性状、SAHの手術内容、
周産期歴、性器出血、おなかの張り、帯下
について問うと回答されていました。

また、約1/3の方が産婦人科コンサルトを選択され、

CTの放射線被爆について
解熱剤・抗生剤の胎児への影響について
胎児のWell-beingの評価
絨毛膜炎や切迫早産の可能性
虫垂炎の可能性
他に考えるべき事がないかを尋ねる
などがコンサルトの内容でした。

質問2)妊娠歴を聞いて・・・

201302case02

(総回答数29名)

SAH術後の髄膜炎の可能性があり血液培養、その後産婦人科コンサルト
血液検査(凝固系、血小板、肝酵素)、早産の徴候を調べる
前回妊娠の経過の詳細を聴取。
頭部CTをとる。
SLEや抗リン脂質抗体症候群を考慮する。
質問1の回答に加えて、上記の意見がありました。

●本症例の経過
本症例は明らかな熱源はないものの、発熱から数時間での来院であり、全身状態も良好、インフルエンザ大流行中、ER大混雑中、ということから感冒(ウイルス感染症)としてすぐに帰宅となりました。
4時間後、”慢性便秘の症状”と考えていた軽い腹満感が、陣痛様の強い痛みに変わったためにERへ再来しました。
すぐに産婦人科レジデントが診察し、すでに子宮口が開大し胎胞が突出しており、羊水のグラム染色にてグラム陽性球菌の貪食像を認めたため、絨毛膜羊膜炎による陣発(24週0日)として抗生剤を投与しつつ緊急分娩となりました。後の羊水培養でGBSが検出されました。

●早産 Preterm Birth(PTB)について
日本の早産はGA22週0日から36週6日での分娩と定義されます。
日本では総分娩の5.7%(2010年)で、この30年で増加し、特にGA32週以降の早産が急増しています。
様々なリスク要因が挙げられていますが、中でも前回早産の既往は最も強い早産のリスク因子と言われています。
そしてしばしば前回と同じ週数で発症します。
(Wiliams Obstetrics:23rd Editionによると約70%が前回分娩週数±2週以内の早産)
特に直前の妊娠がPTBだった場合と、複数回PTBの既往があるほど高リスクとなります。
(早産再発率は1回の早産の既往なら14-22%、2回で28-42%、3回で67%)

●絨毛膜羊膜炎について
絨毛膜羊膜炎は早産の1/3と関係するとの報告もあり、分娩週数が小さくなるほど絨毛膜羊膜炎の頻度が増します。(37w以降の分娩で5%, 33~36wで8%, 28~32wで15%)

絨毛膜羊膜炎による早産の既往も、リスク因子となります。
上行性感染と言われますが、妊娠前からの慢性子宮内膜炎が顕在化して発症するケースもあるようです。
様々な菌種が関与し、その他にウレアプラズマ/マイコプラズマやカンジダ属などの真菌、血腫などの非感染症が原因となる事があります。

様々な感染症が早産のリスク因子となることが知られていますが、
特に絨毛膜羊膜炎は早い週数での早産や前期破水、頚管無力症のリスク因子であり、また胎児感染、胎児炎症反応症候群の原因となり児の予後にも大きく関与するため、できるだけ早期診断と適切な対応が必要となります。

●絨毛膜羊膜炎の診断
残念ながら症状は非特異的で無症状な場合もあり、特に早期の診断は困難です。
確定診断は病理によって行われます。

Lenckiの基準(以下)がよく知られていますが、必ずしも絨毛膜羊膜炎に特異的なものではなく、この基準に該当する場合はかなり進行しており、多くはすでに早急に児を娩出せざるを得ない状態です。

Lenckiの基準
① 母体の38℃以上の発熱
② ①に加えて以下の2つ以上を満たす。①がなければ4つ全てを満たす
Maternal Leukocytosis (WBC >15000)
Maternal tachycardia(HR>100/min)
Fetal tachycardia (HR>160/min)
Uterine tenderness / contraction
Foul odor of amniotic fluid

絨毛膜羊膜炎を早い段階で診断するには羊水検査が有用で、羊水検査により絨毛膜羊膜炎の進行度を評価し胎児娩出のタイミングを判断します。

Lenckiの基準も羊水検査も、救急医だけで診断を完結するのは困難です。

救急医としてはハイリスク群を見つけにいって、産婦人科へコンサルトする、という姿勢が大切ですね。
今回の症例は、前回も妊娠24週での早産で、原因は絨毛膜羊膜炎でした。
非常にハイリスクな時期のハイリスクな妊婦さんだったんですね。
初診時に妊娠歴を確認していたら、その時点で「腹満感」という訴えや、まだ発熱数時間とはいえ「明らかな熱源がない」ことから、産婦人科コンサルトを考慮できたかもしれませんね。
産婦人科へのコンサルトのタイミングやルールは各施設によって大きく異なることと思います。
「生存可能な週数の妊婦ならば必ず産婦人科に一報いれる」でもよいのかもしれません。
みなさんの施設では産婦人科と救急の間で、何か取り決めがありますか?
気軽にコメントを頂けたら嬉しいです。

●Take Home Message
①妊婦の発熱を診たら妊娠歴を聞く。
②早産の既往は次の早産の強いリスク因子で、同じ週数で起こる事が多い。
③絨毛膜羊膜炎は分娩週数が小さいほど頻度が増し、児の予後にも大きく関与する。
④腹部の張りがあったり、明らかな熱源がなければ産婦人科コンサルトを考える。

<参考>
#Wiliams Obstetrics:23rd Edition
#Obstet Gynecol 112: 516-523, 2008
#“Preterm Birth” UpToDate
#Gabbe: Obstetrics Normal and Problem pregnancies, 6th ed