2020.01.17

EMA症例24:1月症例解説

たくさんの素晴らしい回答ありがとうございました。 今回の症例は前腕骨両骨内側脱臼です。

それでは質問の内容を振り返ってみましょう。

○検査の計画は? * 複数回答可 (総回答者数30名)

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飲酒後の患者さんが目撃のない転倒をした場合にどこまで検査を行うかというのは悩ましい問題ですよね。今回は肘の変形もありかなり外力が加わった可能性があるかもしれせんが、一般的な高エネルギー外傷の定義とはなりませんね。

失神が背景にあったと考えた回答者の方は、心電図、血算、心筋逸脱酵素を検査されたと思います。

FAST、胸部X線、骨盤X線は一般的な外傷のアプローチとしてオーダーされたと思いますが、バイタルサインの安定している外傷例ということで骨盤は撮影されない方も多いようですね。

目撃のない転倒ということで頭部CTを撮影される方が多くみられましたが、頚椎の圧痛がないということで頚椎CTは少数派でした。(このあたりはNEXUSなのかCanadianなのか?それとも酔いが覚めてからなのか?という議論ができますね。)

左上肢についてはアルコール摂取後の患者さんということで肘の上下の関節の評価を行うという意見が多くみられました。

※実際の症例では、心電図、末血、生化学、心筋逸脱酵素、頭部CT、頚椎CT、左肩X線、左肘2方向X線、左手首X線という検査計画を立てました。

○診断は? 前腕骨両骨内側脱臼 (総回答者数30名)

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今回の症例は前腕骨両骨内側脱臼骨折ですが、一般的に肘関節の脱臼は以下の様な頻度と受傷機転となっています。

後方脱臼 (最多)
肘を伸展したまま手を衝いて転倒

前方脱臼 (きわめて稀)
肘関節屈曲位で後方から肘頭,前腕部に直達外力を受けて発生

外側(内側)脱臼 (稀)
前腕部に尺側(橈側)から強大な外力が加わり,肘関節に外転が強制され発生

○ 鎮静時のアプローチは? * 複数回答可 (総回答者数30名)

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脱臼時整復時にどのような計画を立てるかという質問ですね。みなさんの病院には処置時の鎮静の決まりやトレーニングはありますか?ACEPの鎮静のClinical Policy(Ann Emerg Med. 2005;45:177-196.)では、Procedural sedation and analgesia(PSA)処置時の鎮静とは鎮静薬、鎮痛薬を単独もしくは組み合わせて使うことと定義しています。

処置時の鎮静ではLevelCですが資格のある医療者(救急指導医もしくはそれと同等の資格を持つもの)がいることが望ましく、同じくLevelCですが鎮静前に病歴と身体所見を、鎮静と気道管理の計画に行うことが薦められています。

最終飲食歴の確認の必要性はLevelCですが、鎮静の深度を決める参考になるとされています。

処置時の鎮静にはLevelCですが一般的に酸素、吸引、リバース薬剤、救急カートで使用する気道管理や蘇生の物品を揃えることが薦められています。リバース薬剤については使用しないという考えもあります。それはリバース薬の作用時間が一般的に鎮静薬よりも短く一時的に回復した呼吸がまた抑制されることが多く、再抑制が起きた時に気づかないことがあるからです。

モニタリングはSpO2、血圧、脈拍などで呼吸・循環を評価することが望ましいですが、近年(当院などは麻酔科のものを借りる必要がありますが)EtCO2に関する文献が多くみられており、米国の救急部にて使用される頻度が高くなっています。

救急部での処置時の鎮静における薬剤選択ですが、ケタミンはLevelA、プロポフォールはLevelB、フェンタニルとミダゾラムの組み合わせはLevelBという推奨です。今回の症例では筋骨隆隆とした方で個人的な好みからプロポフォールを使用しました。整復前後の痛みのカバーのためにペンタゾシンを鎮痛に使用しました。

○ 整復時に気をつけるべき合併症は?

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一般的な血管(特に上腕動脈)や神経(正中や尺骨など)の合併症にくわえて整復時に骨折や靭帯損傷がおこることもあるのでそちらの説明も必要ですね。また鎮静による呼吸抑制や嘔吐(そして誤嚥)なども鎮静にあたり説明することが必要になりますね。

○整復の方法は?

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今回は前腕骨両骨内側脱臼骨折ですが、整復方法は前方脱臼と近いため前方脱臼の整復方法をご紹介します。

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今回の症例では透視下に徒手整復にて軸方向に牽引をし、やや内側に両骨骨頭を誘導したのちに整復となりました。

○整復後には?

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一般的に脱臼整復後は固定がすることが多く、みなさんの回答もそれを反映しています。神経血管障害がない場合は、翌日の整形外科外来が一般的ですね。

まとめ:
・飲酒後転倒の患者さんのアプローチにおいては目撃の有無などによって評価の程度を帰る必要がある。
・整復時には鎮静を要することが多く鎮静においては鎮静に必要な問診・身体所見・準備を別個に行う必要がある。
・整復時の合併症の説明には神経血管に加えて骨折・靭帯損傷また鎮静に伴う合併症(誤嚥や低酸素・低血圧など)も説明する必要がある。
・整復前後に整形外科と情報取り合い患者さんにベストの整復手技や外来通院を計画する必要がある。

参考文献:
・Clinical Procedures in Emergency Medicine, 4e
・ACEP, Clinical Policy Procedural sedation and analgesia in the Emergency Department(Ann Emerg Med. 2005;45:177-196.)
・Orthopedic pitfalls in the ED: neurovascular injury associated with posterior elbow dislocations. Am J Emerg Med. Oct 2010;28(8):960-5.
・Emerg Med Clin North Am. 1999 Nov;17(4):843-58, vi. Emergency department evaluation and treatment of elbow and forearm injuries