2020.01.17

EMA症例21:10月症例解説

10月症例の解説です。
たくさんの方からの回答をいただきありがとうございました。
まずは質問への回答のまとめをしていきます。

質問① 
「この人はどのような状態と考えられますか?」

 ほぼみなさん造影剤でのアナフィラキシーという回答でした。症例の経過からはまず考えられ、即座に対応をしなくてはならない疾患として、やはり確実に想起されたいものであります。

「どのような対応をしますか?」

 回答を示します。

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 救急医たるもの最初はABCの確保ですね。ただし今回は狭いCT室での出来事なので、その辺をどう考慮するかで意見が分かれたのかと思います。具体的な薬剤投与についてはエピネフリン(アドレナリン、ボスミン)が多数でした。また投与経路としては筋注が多く、皮下注、静注という意見もありました。投与量については0.1mg〜1.0mgまで意見が有りました。0.3mgを筋注という意見が最も多かったです。

質問②
「今回のCPRにはエピネフリンをどれだけ使用しますか?」

 回答を示します。

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 CPAなので、基本的にはエピネフリンは1mg静注で良いかと思います。今回はCPAの原因はアナフィラキシーと考えられるため、後述するようにより高用量使用することも考慮されても良いかもしれません。

質問③
「この時点(アナフィラキシーが原因と考えられるCPA蘇生後、既往と薬剤歴が判明)で次の1手としてどのような対応をしますか?」

 回答を示します

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 総じて心電図、心血管エコーなどをしてCPAに至ったアナフィラキシー以外の原因を検索しつつ、アナフィラキシーの追加治療を行うという意見になったかと思います。
 具体的な薬剤投与として、エピネフリンの持続投与、グルカゴンを使用するという意見、ノルエピネフリン、ドパミンの持続投与をするという意見が見られました。また、H1、H2blockerの投与、ステロイドの投与という意見もありました。

<症例の経過>
xx:55 CT室での急変連絡
    アナフィラキシーショックと判断してエピネフリン0.3mg I.M.
    BVM換気に抵抗がないことを確認、点滴を全開で落とし始める
    CT室とERは距離が離れていないため今後の処置を考えERへ移動
xx:58 ER搬入 メチルプレドニゾロン40mg I.V.
xx:59 頸動脈が触知されなくなりCPRを開始 発疹は消失
xx:00 モニター波形PEA エピネフリン1mg I.V.
xx:01 気管挿管施行
xx:03 体動確認 HR87bpm 大腿動脈触知可能
xx:04 心血管エコー施行
    血圧50mmHg HR112 SpO2 100%
xx:10 静脈ルート2つ目確保 生食ボーラス投与開始
    投薬歴確認 βblocker内服中と判明
    グルカゴン0.5mg I.V. エピネフリン1.0mg I.V.
xx:15 四肢活発に動かし始める
xx:20 グルカゴン0.5mg I.V.
    バッキング出現 呼びかけにうなずき出る
xx:25 ノルエピネフリン0.5mg/hで持続投与開始
    血圧120mmHg 脈拍138bpm SpO299%
    サルブタモール吸入施行
 以後ノルエピネフリン及び酸素を漸減しつつ経過観察
 心臓血管外科へひきついでICU入院

という事で、アナフィラキシーからのCPAとして対応していたのですが、エピネフリンへの反応が芳しくなく、βblocker内服中ということが判明次第グルカゴン静注を行ったところ、救命できた一例です。

<アナフィラキシーショックについて>
 生体が特定の抗原に暴露したことで起こる、急性の全身性免疫反応をアナフィラキシーと呼びます。種々のケミカルメディエーターが放出され、これにより血管拡張・血管透過性亢進が起こり、静脈環流量が減少しショックとなります。症状出現から数分から数時間で死に至るため、早期に病態を認識する事が重要となります。
 症状は多岐にわたるため、皮膚や粘膜、バイタルサインの変化から柔軟にかつ積極的に疑っていく必要があります。迅速に判断するためにNational Institute of Allergy and Infectious Disease and Food Allergy and Anaphylaxis Network (NIAID/FAAN) より診断基準が提唱されています(参考文献2)参照)。急性の皮膚・粘膜病変に加えて呼吸器症状・低血圧・終末臓器障害があれば臨床的に判断できるという診断基準です。臨床的に活用し早期に診断したいところですが、ピットフォールとして皮膚病変が必ずしも出現しない事もあり(10%程度!)、皮膚症状の欠如を理由にアナフィラキシーを疑わずにエピネフリンが投与されないことがあるため注意が必要です。治療は速やかに開始しなくてはなりません。以下に基本的な治療を述べます。

 まずはABCの評価と確保を行います。気道狭窄の可能性もあり気管挿管も考慮する必要が有ります。また輸液については、発症数分で循環血液量の半分ほどが血管外に漏出されるという報告も有り、早期に大量に行う必要が有ります。
 続いて投薬治療を行いますが、治療初期になるべく早くエピネフリンの投与を行います。これは0.2-0.5mgの筋注が推奨されています。必要があれば5分おきに追加投与を行います。もしシリンジポンプを使用可能であれば、エピネフリン1mgを生食と合わせ100mlとし、30ml/h程度で投与(1μg/kg/min)する方法も提唱されています。皮膚症状に対してはH1blocker及びH2blockerの使用が推奨されています。
 古来からメチルプレドニゾロンの投与が行われてきましたが、急性期への効果は期待されていません。ただし2相性反応の抑制を目的に使用を推奨されています。なお、これについては現時点では有用性を支持するエビデンスは得られていません。
 Βblockerを内服している患者については、エピネフリンの反応が不良になる可能性がありこの場合はグルカゴンの投与が推奨されています。グルカゴンはカテコラミンのレセプターを介さないため、理論的にはβblockerの作用は受けません。Adenylate Cyclaseを活性化させcAMPを増やすことで脱顆粒を抑制させると考えられています。グルカゴンの使用方法としては1-5mgを5分以上かけて投与することが推奨されていますが、グルカゴンには末梢血管拡張作用があるので、エピネフリンの先行投与が必要になります(α作用に期待)。
 気管狭窄が強い患者では、アルブテロール2.5-5mgと生食3mlの吸入も推奨されています。

 アナフィラキシーによって起こったと考えられるCPAについては、通常の蘇生法と他の蘇生法を比較したRCTは存在しないものの、これまでの症例報告から、高用量のエピネフリン静注が奏功することが示唆されています。初回1-3mgのエピネフリンを静注、次に3-5mgを静注、続いて4-10μg/minで持続静注します。

<本症例について>
 この症例では初療はCT室で行う事を余儀なくされました。施設によってはERとCT室が離れている事もあるため、如何に人、モノ、場所を確保するかが戦略の要点となるかと思います。CT室で気道確保がすぐにできるのか、薬物投与は可能か、ERに移動した方が早いのか等々、この機に再確認いただいても良いかと思います。
 薬物投与に関しては、βblockerを内服していたことがKey Pointです。今回の症例ではグルカゴン投与後にバイタルは改善し、救命する事が出来ました。
振り返ってみると、造影CT後ですでに静脈ルートがあったため、エピネフリン投与は持続静注でも良かったのかもしれません。アナフィラキシーショック、アナフィラキシーでのCPAに対するエピネフリンの投与方法については、今後検討していく必要があるでしょう。

<Pearls>
# アナフィラキシーショックは数分でCPAに陥る可能性があります。
# 皮膚症状が無い場合などにも、他の症状から積極的に疑う必要があります。
# 疑ったらなるべく早くエピネフリンの投与をする事が必要です。
# 高齢者で特に心血管疾患を持っている人や、エピネフリンになかなか反応しない人にはβblocker内服の可能性を頭に置き、必要ならグルカゴンの使用を考慮しましょう。

<参考文献>
1) The diagnosis and management of anaphylaxis: An updated practice parameter. J Allergy Clin Immunol 2005 ; 115 : S483-523
2) Manivannan V, et al. Visual representation of National Institute of Allergy and Infectious Disease and Food Allergy and Anaphylaxis Network criteria for anaphylaxis. Int J Emerg Med. 2009; 2(1): 3-5.
3) UpToDate ; Anaphylaxis: Rapid recognition and treatment
4) JRC蘇生ガイドライン2010