2020.01.17

EMA症例20:9月症例解説

今回もたくさんの方にご回答いただき、ありがとうございました!

まず、質問の回答をまとめていきたいと思います。

質問1 この時点で追加したい身体所見、聴取したい病歴はありますか?(複数回答可)

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その他自由記載で、頭痛の有無、食事状態、家族歴、外傷歴、項部硬直、Jolt accelerationなどを挙げてくださった方もいました。

質問2 初回検査は何をしますか?(複数回答可)

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#心電図:syncopal seizureといって脳虚血が進行して痙攣に至る事もあるので必要ですね。

#頭部単純CT:成人の初回痙攣発作に対する、EDでの頭部単純CT施行については
Focal neurologic findingsやfocal onset of the seizureであれば、異常がみつかる可能性があがります。
他にも悪性腫瘍の既往やHIV患者、アルコール依存、頭部外傷、高齢者で単純CTで異常が見つかる可能性が高くなります。

#頭部MRI:器質的異常の検索ではCTよりも感度が高いですが、EDで必ず診断しておきたい急性期の出血はCTの方が得意ですし、MRIをすぐにとれないEDも多いでしょう。

#腰椎穿刺:施行するのは中枢神経感染症やSAHを疑う時ですね。
熱や強い頭痛を伴う、意識変容が続く、免疫不全状態などがあれば施行します。
EDでは、迷ったら腰椎穿刺を施行するという姿勢でよいと思います。

質問3 まずどうしますか?

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痙攣重積の初期治療は、まずABCの管理です。

抗けいれん薬は
第1選択薬:ジアゼパム
第2選択薬:フェニトイン、もしくはフェノバルビタール・ミダゾラム(施設による)

それでも痙攣が持続するならば気管挿管を考慮しながら、さらに鎮静薬/麻酔薬を追加。

質問4 この時点で追加したい項目は?(複数回答可)

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質問5 この時点で考えられる鑑別は?(自由記載)

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<症例の経過>

1度目の全身性の痙攣後に腰椎穿刺を施行。
初圧19mmH2O、キサントクロミー(-), 血性(–), cell 0, Protein 30, glu 71とほぼ正常範囲でした。
その後痙攣重積したため、気管挿管し全身管理のためICUに入室しました。
やや右上下肢の動きは悪く、挿管チューブを抜去しようと暴れていました。
アルコール離脱、てんかん/post ictal status、脳梗塞、脳炎、腫瘍などを鑑別に考え、翌朝MRIをとる予定でミダゾラムで鎮静しましたが、なかなか鎮静が聞かず不穏な状態が続きました。
翌日のMRIでは、出血性梗塞を含む両側の梗塞像を認めました。

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読影の結果は、横断像の頭頂部スライスにて傍正中部にT2/FLAIRにて高信号。
T2*にて上矢状洞/両側皮質静脈に著明な低信号。MRVにて上矢状洞に描出不領域あり。

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というわけで、診断は、上矢状洞血栓症でした。
急ぎヘパリン化を開始したところ、徐々に意識レベル/右上下肢麻痺から回復し、リハビリをして退院となりました。
もっと深く鎮静して早めにMRIをとる事ができたら、もしかしたら出血する前に診断できたかもしれない症例でした。

<脳静脈洞血栓症(以下CVT)>

発症:5人/10万/年と推定。若年成人や小児にも発症します。
危険因子:凝固亢進状態
(遺伝性、手術、外傷、妊娠、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍、ホルモン療法、感染症)
症状:症状は様々なため診断は困難です。
発症から病院受診まで平均4日、診断まで平均7日です。
若〜中年、数日〜数週間で徐々に増悪、痙攣、意識変容、多発出血性梗塞などで疑います。

#頭痛(90%)
#痙攣(40%)
#局所症状(50%)

機序:
①脳血管の血栓(静脈閉塞)による局所の浮腫&静脈梗塞
②静脈洞の血栓による脳脊髄液の吸収阻害で頭蓋内圧の亢進
という2つの機序がほぼ同時に発生します。

診断:臨床経過から疑い、最も感度の高い検査はMRI/MRV(MR静脈造影)です。
造影CT/CTV(CT静脈造影)も有用ですが、隣接した骨により見にくい場合もあります。
CT/MRIではっきりしない場合は血管造影も考慮します。

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ただし、CVTを疑ってMRI/MRVを施行しても、その読影は難しく、血栓形成後の時期により性状が異なり、MRVで欠損しているように見えても撮影のタイミングの問題であったりすることもあるようです。当院放射線科医によると、T2*にて静脈洞/静脈の内部に著明な低信号があるのが特徴的とのことでした。専門家の読影は必須と思われます。

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治療:
#ヘルニア予防、バイタル管理、感染症の関与があれば抗生剤
#抗凝固:ヘパリン ただし40%で診断前に出血を来していることもありcontraversy
#頭蓋内圧亢進:頭蓋内圧亢進を伴うなら視野をモニター
        アセタゾラミド、腰椎穿刺、視神経減圧術、LPシャントも考慮
#抗痙攣:痙攣発作があれば、抗痙攣薬の投与

予後:再発(2.2%), 別の血栓症を発症(4.3%), 痙攣(10.6%), 強い頭痛(14.1%), 視野欠損(0.6%),死亡(8.3%)

<Pearls>

#本症例は、最初は頭部単純CTでは異常を認めず、てんかん、アルコール離脱、脳炎、脳腫瘍などを考えましたが、ベンゾジアゼピンによる鎮静を行っても痙攣重積、不穏が持続したことや、部分発作から始まったことなどから、何かおかしいと考えて施行したMRIより脳静脈洞血栓症を疑い、MRVにて診断にいたったケースでした。
#脳静脈洞血栓症は多様な臨床所見を示し、疑わないと診断は困難です。
#頭痛+神経巣症状、若年〜中年、数日〜数週間で徐々に増悪する、痙攣、意識変容、多発出血性梗塞などがあれば疑いましょう。

<参考文献>
#The Emergency Department Evaluation of the Adult Patient Who Presents with a first-Time Seizure : Emerg Med Clin N Am29(2011)41-49
#Rosen’s Emergency Medicicine, 7th ed.
#http://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/sinkei_epgl_2010_09.pdf
#Diagnosis and Management of Cerebral Venous Thrombosis: Stroke 2011;42:1158-1192
#Prognosis of Cerebral Vein & Dural Sinus Thrombosis: Results of the International Study on #Cerebral Vein & Dural Sinus Thrombosis: Stroke2004;35:664-670
#Thrombosis of the Cerebral Veins & Sinuses: NEJM2005;352:1791-8