2020.01.17

EMA症例18:7月症例解説

みなさま、素晴らしい解答をありがとうございました!
問題をまだご覧になっていない方はhttp://www.emalliance.org/?p=1401から

本症例のように飲酒後に階段で寝ていた場合、どうしてそのようにそこで寝るに至ったかを想像して診療にあたるのはとても重要になります。
本症例では顔面の外傷を気にしながらも顔面以外の損傷を見逃さないようにしましょう。体幹部の致死的損傷はprimary surveyで否定的ですが、頭部顔面の打撲がある場合は頚椎損傷がないか、また、嘔吐があり気道は吸引で開通しているものの誤嚥性肺炎の合併がないか、肋骨骨折や血気胸をきたしていないかは今後のマネジメントを大きく左右するためしっかり評価しましょう。
また、飲酒後とはいえ、意識障害や転倒の原因をエタノールだけに限定せず不整脈や脳血管障害、けいれんの可能性を必ず考慮するようにしましょう。
他にもアルコールはその代謝過程でNADPH/NAD上昇→ピルビン酸から乳酸の産生上昇→糖新生低下となり、低血糖を引き起こすことがあるため飲酒後の低血糖は必ず除外するようにしたいですね。

さて、本患者ではお酒から覚めてきたか、と思っていたら左目の視力低下を訴えました。単眼の視力低下は頭蓋内病変でないことがほとんどで視交叉より末梢の障害を示唆しますので眼科的診察が系統建ててできることが重要となります。
Tintinalliには眼球損傷もしくは視力障害がないか確認(眼球破裂あったら眼科即コンサルト)眼球運動の確認(眼窩底吹き抜け骨折)、眼瞼下部の感覚障害の確認(眼窩下神経損傷)細隙灯で角膜、結膜、前房を観察以上で問題なければ48時間以内の眼科フォローでよいとしています。
本症例では視力障害を訴えていましたが眼球形態は保たれており、眼球運動、角膜や前房に異常を認めませんでした。しかしながら直接対光反射が消失しており間接対光反射は保たれていました。続けて行ったSwinging-flashlight testも陽性でした

具体的な所見は以下の動画が参考になります

http://www.youtube.com/watch?v=IcrXmeCI08w

そこから左の視神経障害を疑い、眼窩のCTを施行したところ以下のように視神経管の損傷があり視神経の圧迫をきたしていました。

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視束管損傷(視神経管損傷)は眉毛外側の打撲により生じることが多く(骨折がなくても生じる)、一側の視神経の圧迫により視力障害を生じます。
治療は外科的な視神経管開放術、全身性のステロイド投与などが挙げられていますが、どれも確実な有効性が示されており、経過観察により視力が自然に回復する例も多く存在します。このうちどれを行うか、もしくは経過観察するかは難しいところである一方で、視力障害はその後のQOLを大きく左右する機能障害であるため院内の眼科とある程度のコンセンサスを作っておくのがよいでしょう。

マイナーな外傷も丁寧な診察で適切にマネジメントできることがER医の大事な要素と感じた教育的な症例でした。

(今回の症例のpearl)
- 見た目の派手な外傷にとらわれず、全身の診察を大切にしてsecond traumaを見逃さない
- アルコール患者は特に感覚器などの自覚症状が重要なものはアルコールが抜けたら再診察。
- 眉毛外側の打撲では視力障害がないことを確認、対光反射は間接も重要な手がかり

ありがとうございました。

参考文献
・Cochrane Database Syst Rev. 2005 Oct 19;(4):CD005024.
Surgery for traumatic optic neuropathy.
・Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jan 19;(1):CD006032.
Steroids for traumatic optic neuropathy.
・Tintinalli ocular emergency: blunt trauma