2020.01.17

EMA症例16:5月症例解説

<5月症例の解説>
今回は23名の方に回答をいただきました。
いつもよりも参加人数が少なかったのは、自由記載があったからでしょうか・・・
参加してくださった方ありがとうございました。

<アンケート結果>
自由記載が多かったため、傾向を記します。
質問1 追加問診事項
 痛みの性状や、初めての症状か、といった主訴に関連した問診が多かったです(ER医として当然!?)。その他、悪性腫瘍の既往があることから、便の性状・体重減少の有無、また下肢のしびれの有無など神経所見についても意見が出ていました。

質問2 確認したい身体所見
 臀部の所見といった基本的なものの他に、下肢の脈拍の左右差、下肢のしびれ、psoas signなど、特定の疾患を考えながら取りたい身体所見を挙げて下さっていた方が多かったです。

質問3 行いたい検査
 多くの人が採血・画像検査を含めた検査選ばれました。このようなクイズ形式なので、「重大な疾患が隠れているのだろう」と推測し選んで下さったのでしょうか?
 1つの検査のみを選んだ方は、腹部超音波検査(大動脈疾患の除外)下肢血管エコーを選択されました、救急外来でどこまで検査を行うかという意見もありました。

質問4 疑う疾患カテゴリー:大血管病変を疑う、とされた方がダントツでした!
次点は感染症でした。

質問5 もっとも疑いたい疾患
 1位:大血管病変(AAA、腸骨動脈瘤の破裂、解離など)
 2位:膿瘍形成(→今回の症例の結果ですね)
 3位:悪性腫瘍(転移・再発など)

その他、閉鎖孔ヘルニア、IEからの塞栓という意見もありました

<以下解説文>
 今回の患者さんの経過です。
 診察担当医は、圧痛、運動時痛であり筋骨格系の痛みである可能性が高いと判断。CT・レントゲンなどの検査を勧めたが、検査は不要と患者本人が言ったため鎮痛剤処方し帰宅となった。
 その2日後、再度受診。前回診察翌日に39℃の発熱があり、発熱が持続し、寝返りをするのも痛くなったとのことで救急搬送。前回救急外来受診時に悪寒を自覚していたと・・・
 2回目の受診時は、発熱、頻呼吸認め、身体所見では右仙骨付近に圧痛あり。CTで右仙腸関節周囲のair・右梨状筋の腫脹あり

(画像供覧)

51ed98b09fa21ce51051c2d8220ff3581
  
MRI T2強調画像で右仙腸関節面から尾側にかけて右梨状筋およびその周囲の高信号域、右仙腸関節腔拡大を認め、仙腸関節炎・仙腸関節膿瘍の診断で入院となりました。治療開始前に採取した血液培養3セット・仙腸関節穿刺液からMSSAが検出されました・・・

<診断>仙腸関節炎/膿瘍
<化膿性仙腸関節炎の解説>
 化膿性仙腸関節炎は、発症の平均年齢が22.5歳という報告もあり1)、比較的若年者に多い感染症とされています。関連する因子として、外傷・糖尿病・妊娠・薬物乱用などが言われています。臨床症状とCT・MRIで診断がなされる場合が多いですが、確定診断は仙腸関節内穿刺により起炎菌を同定することです(細菌の陽性率は75%)

症状は、急性発症の腰痛・片側臀部痛・下肢痛が多く、発熱は90%以上の症例で認められます。症状出現後、診断にいたるまでに平均6~10日を要していたという過去の報告もあり、診断に難渋する疾患でもあるようです。

 起炎菌は、黄色ブドウ球菌が多数を占め初発感染症は尿路感染症・婦人科感染症・皮膚感染症が多いと言われています。治療は安静と抗菌薬投与ですが、膿瘍形成・抗菌薬無効例では外科的ドレナージも考慮されます。

<今回のキーポイント>
 今回の患者さんは殿部痛でしたが、腰周囲の痛みを主訴に救急外来を受診する患者さんは多いと思います。そのなかでも見逃してはいけないのが、大動脈疾患・感染症・悪性腫瘍です。発熱・悪寒は感染症を示唆するレッドフラッグサインです。今回の患者さんは、受診時に悪寒を自覚していたが、担当医は問診で確認をしていませんでした。
 たとえ全身状態がよさそうに思えても、除外すべき疾患はしっかりと除外し、ひっかかるところがあれば検査の閾値を下げる、といった対応が必要であると思います。