2024.10.31

EMA症例159:9月解説

2024 年9 月症例にご参加いただきました皆様、誠にありがとうございます。10月20 日時点で質問に回答をいただいた方は 217 名いらっしゃいました。皆様の回答の集計結果を紹介します。

質問1:どのような疾患を想定しますか?(自由記載)

非常に多彩な鑑別が上がりましたが、大多数は上記の6項目に分類されました。上記以外では、免疫介在性脳炎、髄膜炎が挙げられておりました。発症様式が突然であり、脳卒中の鑑別を優先される方が多い一方で、患者背景から鑑別を挙げた方も多かったようです


自由記載の回答としては尿中もしくは血中ケトン体測定が10名ほどいらっしゃいました。眼圧や肝臓エコー、血中アルコール濃度なども挙がっております。どの選択肢も正直捨てがたい、という感じもありそうですが、最も選択率が高かったのはビタミンB1でした。患者背景から、何はともあれビタミンB1は測定しておくべきという救急外来らしい意識がうかがえます。


ほとんどの方が、低血糖に対する介入を選択されているのはもちろんですが、血液ガスの結果から早急な全身管理が必要として挿管人工呼吸管理や緊急透析を選択されている方も一定数いらっしゃいました。

質問4:あなたの属性は?

今回も多くの方に参加いただきました。救急外来で日々多くの職種の方が奮闘されていることの表れかもしれません。

その後の症例の経過:
著明なアシデミア+低血糖からアルコール性ケトアシドーシスを想定しブドウ糖+細胞外液投与が行われました。一方で突然発症という病歴から、脳出血/脳梗塞は可能な限り否定をしておく必要があると考え、頭部単純CT+Perfusion CTが施行されました。画像検査は明確な異常はありませんでしたが、フォローの血液ガスでは乳酸では説明できない不揮発酸の貯留によるアシデミアが進行していました。両目失明、不揮発酸の貯留、そして検査で判明した浸透圧ギャップから、メタノール中毒を強く疑い、ホメピゾールの投与を行っています。ホメピゾール投与後数時間で視力は改善傾向になり、全身管理目的にICU入室となりました。

解説:
■メタノール中毒の概要
メタノールは毒性のあるアルコールで、溶剤として、または変性工業用アルコールに使用されます。蒸留酒や果物など、日常に存在するものの中にも微量に含まれる物質ですが、メタノールの生産は1923年に工業規模に達し、自動車模型、飛行機燃料、香料、コピー機の液体、ガスライン不凍液など、様々な産業で幅広い用途が見出されています。

そのものの摂取による中毒はもちろんですが、メタノールを基剤とする製剤の摂取、吸入、皮膚曝露も中毒を引き起こす可能性があります。チュニジア、トルコ、インドでは、メタノール毒性のほとんどがコロンや香水の摂取に関連していることが報告されています(1,2)。またイランでは、ハーブ飲料のサンプルの50%以上がメタノールで汚染されていることが報告され、慢性的な暴露源になっている可能性が示唆されています(3)。
メタノール中毒は発展途上国や東南アジアで最も高く、主に経済的・社会的低層に多いとされます(4)。また国外ではアウトブレイクも散見され、文献で確認できる範囲でもノルウェー、イラン、リビア、チェコ共和国、エストニア、リビア、マレーシア(5–12)、それ以外にもカンボジア、エクアドル、インド、インドネシア、ニカラグア、パキスタン、ルーマニア、スーダン、トルコ、ウガンダでも生じているようです(13)。致死率が50%を超える報告も存在しますが、これは治療が開始されるまでの期間によるものとされ、迅速に治療介入された場合には後遺症を残さない可能性も十分存在します(11–13)。

適切な治療を受けるのが遅れる要因はいくつか指摘がされています。一つは、そもそも初期症状が非特異的であることが理由とされています。こちらについては後述いたします。また、日本は関係が薄いですが、アルコール摂取が社会的または宗教的に容認されていない地域では、処罰を恐れて受診が遅れることも示唆されています(14)。

■メタノールの生化学的・薬物動態学的特性
表1にメタノールの特性を記載いたします。中毒量/致死量は個々人の感受性に影響される部分が大きいようで、死亡症例の最小値は40%濃度のメタノール15mlですが500ml内服しても問題なかった報告も存在します(15,16)。エタノールと同様に消化管粘膜から速やかに吸収され、食事には影響されるものの、内服から30-60分で最高血中濃度へ到達するとされています(17–19)。代謝のほとんどは肝臓で為されますが、少量は腎臓や腎外(呼吸と推定されています)からも排泄されることがわかっています(20,21)。
図1にメタノールの主な代謝経路を記載しました。ホルムアルデヒドも細胞毒性があると知られていますが、半減期が1-2分と短く臨床的に問題となるのはギ酸となります(22)。

表1 メタノールの生化学的特性と薬物動態学的特性((19)より引用し作成)

分子量 32.04 分布容積 0.6-0.8L/kg
密度 0.79g/ml 腎クリアランス 5-6ml/min
沸点 64.7度 腎外クリアランス 7-13ml/min

中毒量

30ml

半減期

2.3-13.7時間

致死量 60ml 半減期(ホメピゾール併用) 平均54時間(9-87時間)


図1 メタノールの代謝経路((19)より引用)

■メタノール中毒の病態生理と症状
表2にメタノール中毒の症状で報告されているものの一覧を提示いたします。眼症状以外は正直なところ、通常の急性アルコール中毒患者でも生じうるもので、眼症状が生じる前のメタノール中毒を診断するのは、本邦のようにメタノール中毒が珍しい国では難しいと言わざるを得ません。
中毒の中核を担っているギ酸はミトコンドリアのチトクロームオキシダーゼ(aa3およびc)を阻害し、ミトコンドリア内の電子輸送を阻害、最終的には酸化的リン酸化が停止し種々の症状を引き起こします。この状態はシアン中毒やCO中毒と似ているとも表現されます(22)。
ギ酸に対する感受性は組織によって異なると推測されており、メタノールによる中毒性視神経症(Methanol-induced optic neuropathy:Me-ION)が最も有名です。他には大脳基底核も影響を受けやすいことが知られ、パーキンソンニズムを含めた運動障害が罹患後数日~数週してから生じることも報告されています(23)。
視覚症状はメタノール中毒の29-72%で生じ(24,25)、多くの症例で急速な進行があるとされます。また慢性的な暴露がある患者でも、急激で強い視力障害をきっかけに受診する例も報告されています(26)。
中毒の臨床症状はその速やかな吸収の性質もあり、摂取後0.5-4時間で出現し、摂取量に影響されるものの6-24時間かけて進行します(14,25)。ただし、エタノールが併存している場合この期間は72-96時間まで遅延する可能性も指摘されています(25)。

表2 メタノール中毒の症状一覧((22)より引用)

■メタノール中毒の診断と治療
前述の通り視力障害を除けばメタノール中毒の症状は非特異的です。エタノールを同時摂取していることも多く、泥酔患者としか考えられないこともあります。したがって、「救急外来で泥酔患者を急性アルコール中毒となめてかからない」というのがもっとも大切なことになります。実臨床においては、外傷が見逃されていることも珍しくありません。そのうえで、診断のキーワードは「浸透圧ギャップ」「経時的に悪化するor著明な代謝性アシドーシス」です。メタノール中毒に代表される毒性アルコールでは、摂取直後は血漿浸透圧が上昇し、代謝が進むにつれてアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスが生じます(図2)。

図2 毒性アルコールの浸透圧ギャップとアニオンギャップの推移((25)より引用)

浸透圧ギャップとは血液検査で測定された血清浸透圧と以下の式から推定される血清浸透圧との差です。一般的に用いられる計算式は以下です。

血中アルコール濃度が測定できる場合には、エタノールの分子量が46.068g/mmolであることから、上記の計算式に「エタノール(mg/dL)/4.6」を追加してもかまいません。正常の浸透圧差は、水1kg当たり10~20mOsmとされます(25)。ただし、ベースラインの浸透圧ギャップが小さいなどの要因により、毒性アルコールが存在するにも関わらず浸透圧ギャップが正常値である場合も存在するとされています。

日本において急性アルコール中毒全例に血液検査を行う意義は乏しいため、取捨選択が必要です。何らかの症状で点滴加療が必要な場合や、経時的に改善が乏しく急性アルコール中毒としての臨床経過にそぐわない場合に血液ガスを行うのが無難です。また前述の通り、経時的に代謝性アシドーシスが悪化していくことも特徴であり、判断しきれない場合には2-4時間の間隔でフォローアップの血液ガスを行うことも選択肢です(27)。

治療は大きく①解毒薬、②血液透析の二種類に分かれます。最初に解毒薬について取り上げます。

解毒薬はエタノールとホメピゾールの選択肢があり、ともにアルコール脱水素酵素(ADH)を阻害することでその効果を発揮します。エタノールの方が安価ではありますが、管理のしやすさや有害事象を考えると可能な限りホメピゾールを選択するのが無難です。血清メタノール濃度>20-25mg/dLが一般的な閾値ですが、32mg/dLでも問題ないとする説もあります。ホメピゾールは15mg/kgを30分かけて投与し、12時間毎に10mg/kgを投与(4回まで)します。チトクロームP-450による自己代謝を誘導することがあり、その後は再び15mg/kgを12時間毎投与となります(14,27)。やむをえずエタノールを選択する場合は、血清エタノール濃度の目標値は100~125mg/dL、Loadingは600~1000mg/kgが推奨されています。エタノールの血清濃度を1~2時間ごとに繰り返し測定しましょう。10%エタノール液は市販されていないため、作成する必要があり、5%ブドウ糖液1Lから101mlを除き、そこに無水エタノールを101ml加えることで完成します。注意点として、この溶液は1713mOsm/Lと非常に浸透圧が高いため、中心静脈から投与しないといけません(28)。エタノールの経口投与も効果的とはされており、緊急時には経鼻胃管等から市販の酒類を投与するのも選択肢となります(14)。

血液透析はメタノールとギ酸両者の除去に有用ですが、終了後12-36時間はメタノールの再分布に注意する必要があります(14,19)。EXTRIP(Extracorporeal Treatments In Poisoning workgroup)の推奨を表3に記載いたします。EXTRIPは様々な薬物中毒に対する透析の有効性などをレビューしている組織で、臨床に有用な情報を発信しています(https://www.extrip-workgroup.org/publications)。メタノール濃度が測定できない場合、エンピリックな推奨は間欠的血液透析8時間もしくは持続血液透析18時間とされています。ただし、アシデミアのために持続血液透析を5日間要した症例も報告されており、結局のところは透析終了後にアシデミアの再燃がないかを複数回確認することが無難のようです(19,27)。なお、ホメピゾールと透析を併用する場合は、透析でホメピゾールが除去されないよう、透析後にホメピゾール投与を行います(25)。

表3 メタノール中毒に対する透析の推奨((19)より引用)

※ADH:alcohol dehydrogenase

いかがだったでしょうか?メタノール中毒は珍しいですが、日本で生じていないわけではありません。明日、泥酔だと思って診た患者がそうかもしれないところに本当の怖さがあります。そして、それはメタノール中毒のアウトブレイクの始まりかもしれないのです。日本のように、基本的には症例が発生していない国では一定の限られた地域で3人診断された場合、アウトブレイクと考えるべきです(13)。「急性アルコール中毒」という仮面はとても大きく、多くの疾患をその背中に隠してしまいます。冷や汗をかいた経験のある方も少なくないでしょう。軽症そうに見えるから軽症なのではありません。真摯に、慎重に、一つ一つを積み重ねることが救急外来には必要なのです。

Take home message:
  1 泥酔患者を急性アルコール中毒ときめつけないようにしよう
  2 中毒診療では浸透圧ギャップも意識しよう
  3 経時的に進行する不揮発酸の貯留を血液ガスフォローでチェックしよう

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