EMA症例149:11月解説
2023年11 月症例にご参加いただきました皆様、誠にありがとうございます。11月22 日時点で質問に回答をいただいた方は 179 名いらっしゃいました。非常に多くの方にご回答いただきありがとうございます。皆様の回答結果をご紹介いたします。
質問1:どのように止血しますか?
多くの方がアルギン酸含有ドレッシング剤を選択されました。他にも電気メスを使用しての焼却やエピネフリン入りキシロカインを浸すといった手段を選択された方もいらっしゃいました。
質問2:フォロー先をどうしますか?
整形外科や形成外科に紹介する方が多かったです。その他にも救急でフォローする方も多く、救急医の診療の幅が徐々に広がっていて嬉しい限りです。
質問3:あなたの属性は?
今回も多くの皆様に回答していただきました。小児科の先生や医学生の方、救命士の方など様々な分野・職種の方からもご参加ありがとうございます。
解説:
今回は「指からの出血がとまらない!」というテーマでした。みなさん指先からの出血がとまらない時どのようにしますでしょうか?明日から実臨床で使える指先の怪我にまつわる”TIPS”を紹介いたします。
方法1:縫合
まずオーソドックスな止血方法かつ創部の閉鎖方法としては縫合があります。しかし、指尖部の切創はうまく創部がよせられない場合があったり、小児の場合には動かしてしまうことが多々あったりします。そんな時に他にどのような止血方法があるのでしょうか。
方法2:出血部より近位部の圧迫による一時的な止血
圧迫止血が基本的な止血の手段として有名です。出血している部位を10分程度圧迫しましょう。(1)
また一時的な止血を得るために、出血部位よりも近位のターニケット(指ターニケット)を用いると便利です。(1)出血部の圧迫と併用することや、次に紹介する処置の前に実施することもできます。
指ターニケットには、出血部より近位を駆血帯や小さめの清潔手袋などで駆血する方法があります。簡便で止血しやすい一方で、長時間の駆血による阻血や、駆血解除後の再出血という問題が存在します。
方法3:圧迫止血・アルギン酸ナトリウム含有ドレッシング剤による止血
止血の基本は圧迫止血になります。固定力が強いテープを使用してガーゼを強く圧迫した状態で周囲が血液でにじまないようにし翌日以降に整形外科・形成外科などにフォローすることも多いかと思います。また一般的なガーゼよりも「アルギン酸ナトリウム含有ドレッシング剤」(カルトスタット®やソーブサン®、ヘモスタパッド®)を出血している部位につけた上で圧迫することでより止血がえられます。(2) 救急外来でしばらく血がにじまないことを確認し翌日もしくは早めに病院でフォロー(救急科、形成外科、整形外科など)が望ましいです。
方法4:電気メスによる焼却
電気メスによる止血がよく行われます。(3) モノポーラ型電気メスやバイポーラー型電気メスなど種類があります。施設ですぐ使えるものや自分が使いなれたものを使うようにしましょう。
ペースメーカーや埋込み型除細動器(ICD)のある患者については誤作動を起こすおそれもあるために避けたほうが望ましいです。
電気メスによる焼却については整容面にも関わることやその後のフォローにも関わることが多いため実際に処置する前にフォロー後の専門科(整形外科や形成外科など)と十分に話し合いコンセンサスを得てからがいいかもしれません。
方法5:ダーマボンド®を使用
最近は様々な場面でダーマボンド®が使用されています。ダーマボンド®は皮膚用接着剤のひとつです。オクチルシアノアクリレートという成分が空気と触れることで重合し、硬化することで創部を接着することができます。救急外来以外にも、術後の創部閉鎖などの場面で用いられます。
今回は指尖部の出血が止まりにくい場面でも用いられるので紹介します。(4)
1 近位部の駆血をする
まずは上で述べた近位部を駆血して一時的な止血を行います。これを行うことで以下の薬剤を使用しやすくなります。
2 1%エピネフリン入りキシロカインに指をつける。
1%エピネフリン入りキシロカインを10~20ml程度容器に垂らし、その中に指5-10分程度つけます。
3 ダーマボンド®の使用
十分にガーゼなどで水分を拭き取ってからダーマボンドを使用します。
ALiEMというサイトでも動画つきで紹介されているので併せて参考にされてください。
https://www.aliem.com/trick-of-trade-dermal-avulsion-injuries-2-0/?fbclid=IwAR2Ka2RBbYns2tytuFuH3j3666MnlNxg9Lb_Z98HfFWmvmlda79MfNtOS6I
基本的には抜糸などの創部のフォローも不要であり、処置時間も短時間ですむために知っておくと便利な方法です。
ただ、ダーマボンド®を使う注意点はいくつかあります。
添付文書上では「皮下には使用しないこと(異物反応を誘発する可能性があるため)」との記載があり、患者へ事前に説明する必要があります。ただ、ダーマボンド®で接触性皮膚炎の報告はあるものの多くはなく比較的安全に使用できます。(4)
またダーマボンド使用後に追加処置が難しくなります。ワセリンなどの軟膏を使用することではがしやすくなりますが、複雑な創部では避けたほうがいいかもしれません。
近年では様々な場面でダーマボンド®が使用されています。
代表的なものにHAT (Hair Apposition Technique)という方法があります。 頭皮の挫創に対して髪の毛を捻るようにして引き寄せる方法です。通常の縫合と比較しても創部の閉鎖には問題もなく、処置時間が短かったり満足度も高かったりとメリットも大きいです。(5)
こちらのサイトで合わせてご確認ください。https://www.aliem.com/trick-of-trade-hair-apposition/?fbclid=IwAR2csW-WQg78eDhR3CGf2cs-O5lBoAa8Ww6hvOj239x5gAmn2R7OZZc9W9g
以上の止血処置でも止血がえられない場合もしくは処置に自信のない場合には、整形外科・形成外科にコンサルトをしてみましょう。
その後の症例の経過:方法5で紹介したダーマボンドを使用した処置を行いました。疼痛症状もなく処置前鎮痛鎮静・鎮静(PSA)使用することもなく無事に処置が終わりました。
Take home message:
1 指尖部の止血方法を習得する
2 ダーマボンドを使ってみよう
引用文献:
1) Alexander T.Trot, 岡 正二郎, ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード. Elsevier, 2019, p.116-118.
2) Xie Y, Gao P, He F, Zhang C. Application of Alginate-Based Hydrogels in Hemostasis. Gels. 2022;8(2):109.
3) Hainer BL. Electrosurgery for the skin. Am Fam Physician. 2002;66(7):1259-1266.
4) Lin BW. A novel, simple method for achieving hemostasis of fingertip dermal avulsion injuries. J Emerg Med. 2015;48(6):702-705.
5) Hock MO, Ooi SB, Saw SM, Lim SH. A randomized controlled trial comparing the hair apposition technique with tissue glue to standard suturing in scalp lacerations (HAT study). Ann Emerg Med. 2002;40(1):19-26.