2023.03.24

EMA症例142:2月症例 解説

みなさま,2023年2月の症例にご参加くださりありがとうございました。集計時点で133名の方に回答をいただきました.参加いただいた方々の属性はこちらです.

 上記のほか,小児科医,看護師,産婦人科医の方々より回答をいただきました.

さて,今回の症例は,心疾患や肺疾患,悪性腫瘍の既往症を持っている高齢男性が呼吸困難を訴えて救急外来を受診したというものでした.
呼吸困難の原因として多数の疾患が考慮される背景ですが,超音波検査を鑑別診断に役立てよう!というのが今月のテーマです.

Take Home Message

まず,今回のTake Home Messageはコチラです.

  1. 呼吸困難の鑑別診断にBLUE protocolとFoCUSを活用しよう
  2. 検査結果待ちなどのスキマ時間を有効活用してエコーを当てよう
  3. 救急外来での超音波検査所見は,他の所見と組み合わせて解釈しよう

 

設問に対するみなさんの回答

まずは本症例に関し,鑑別に挙げたい疾患について,みなさんの回答をみてみましょう.

既往症や,身体所見の頸静脈怒張,III音,下腿浮腫をふまえて,肺血栓塞栓症(PE)および心不全を鑑別疾患の筆頭として回答された方が多かったです.自由記載の設問であり,多様な疾患を挙げてくださいました.

次は,このような患者に対し,実際の臨床現場で,どのように超音波検査を活用されているかの設問です.

最も多いのは,身体診察と一緒に超音波検査をおこなうというスタイルでした.次に多いのは,一旦,検査をオーダーしてから待ち時間に超音波検査をおこなうというスタイルです.どちらにもメリットがありますね.身体診察と共に超音波検査をおこなえば,検査前確率が変化するため,提出する検査の内容が変化するかもしれません.一方,救急外来では検査の待ち時間が診療の律速になることも多いため,待ち時間を活用するのはよい作戦です.まず超音波検査をおこなうという回答もあるほどで,今や超音波検査が身体診察と同等と言ってよいほど基本的なものになっているになっていることがよく分かります.

では,その超音波検査でどのような所見に注目するかというのが次の設問です.

「設問3:本患者における超音波検査で,あなたが得たい所見を検査部位も含めて教えてください」への回答として,最も多かったものは右心系の負荷所見をチェックしたいというもので,のべ100件以上の回答がありました.具体的に,特に多かったのが,左室D-Shape (36件),右室サイズの拡大(23件),三尖弁逆流の評価(18件)でした.

心臓の評価としては,左室収縮能(36件),左室壁運動異常(16件),心嚢水(15件)の回答も多かったです.

その他には,肺エコーとして,B-line(34件)およびLung sliding(22件)の回答が多く,下大静脈径(32件),下肢静脈の血栓(27件),胸水(13件)もチェックしたい項目として多く挙げられました.下肢静脈血栓(DVT)の観察法として,大腿および膝窩の2 pointを走査する,静脈の圧迫を活用しながら血栓を探すという回答がありました.

これらの超音波所見をとりながら,どのように鑑別診断に活用していくとよいかについて考えていきましょう.

BLUE Protocol

救急外来で,呼吸困難を訴える患者の鑑別においてはBLUE Protocolが役立ちます.BLUEとは,Bedside Lung Ultrasound in Emergencyの略称です.2008年にLichtensteinらがChest誌に発表した,集中治療室における急性呼吸不全の診断のための超音波検査のプロトコルです[1].発表後,改良案が提案されながら利用されるシチュエーションが広がっており,救急外来でもその利用可能性が示唆されているところです[2].


画像はLichtenstein DA. Ann Intensive Care. 2014;4(1):1.より引用 (Licensed under CC BY 2.0)

上図はBLUE protocolのフロー図です.今の段階でこの図を理解しなくても構いません.こちらをベースに単純化したり補足したりしながら,呼吸困難患者への超音波検査について解説していきます.

 まず,救急外来におけるエコープローブは以下の3種類あることが多いと思いますが,これらを使い分けていきます.

 BLUE protocolの中で,エコープローブを当てる場所は片肺あたり3箇所あります.


画像はLichtenstein DA, Mezière GA. Crit Ultrasound J. 2011;3(2):109-110.より引用 (Licensed under CC BY 2.0)

患者の胸部に並べた手の中央をUpper BLUE pointLower BLUE pointと呼びます.Upper BLUE pointは鎖骨中線の第2肋間に,Lower BLUE pointは鎖骨外側の第5-6肋間に相当します[3,4].Lower BLUE pointから後腋窩線方向にできるだけ後方に水平移動した点をPLAPS pointと呼びます[3].

BLUE ptorocol理解のKeyとなる超音波所見は以下の4つです.

  1. Lung sliding
  2. A line
  3. B line
  4. PLAPS

では,ひとつひとつ見ていきましょう.

1.    Lung Sliding

Lung slidingはconvexあるいはsectorを用いて,Upper lung pointを観察します.これは呼吸に伴い胸膜が動き,胸膜 (下図・白矢印)が滑って見える所見のことを指します[4].


画像は筆者提供

  • Lung slidingあり: 気胸は否定的[1]
  • Lung slidingなし:気胸, 無気肺, 重度の肺炎, 胸膜癒着など[1]

2.    A line

A lineはconvexあるいはsectorを用いて,Upper/Lower lung pointを観察します.高エコーの水平な線で,繰り返し出現するものです(白矢印)[4].空気によるアーチファクトを見ており,A lineが存在するということは,エコープローブ直下には空気があることを示唆します.正常所見ですが, 気胸でも認められることがあるので,Lung slidingで鑑別しましょう.


画像はKetelaars R. Crit Ultrasound J. 2018;10(1):17.より改変引用(Licensed under CC BY 4.0)

肺の含気が悪くなるような病態ではA lineが見えづらくなります.これは肺水腫が代表的で,代わりにB lineが見えてきます(次項参照).一方,肺塞栓や気管支喘息ではA lineは観察できるということですね.

3.    B line

B lineはconvexあるいはsectorを用いて,Upper/Lower lung pointを観察します.含気のある肺胞と,液体を含む組織が隣接すると超音波を散乱させB lineを作り出します.間質性病変をきたす病態で認め,これをSonographic interstitial syndromeと呼びます[4].1肋間に2本以上のB lineがあるときにLung rocketと呼び,Interstitial syndromeが示唆されます[4].原因は心原性・非心原性肺水腫,間質性肺炎などで,必ずしも心不全というわけではないことに注意です.


画像はLichtenstein DA. Crit Ultrasound J. 2011;3(2):109-110. より改変引用(Licensed under CC BY 2.0)

B lineは数が多いほど重症であることを示唆されます.また,B lineの存在は気胸の可能性を低下させます[4].

4.    PLAPS

PLAPSとはPosterolateral alveolar or pleural syndromeの略です.Convexを用いてPLAPS pointを観察します. 横隔膜直上付近の胸腔内を観察し,胸水の有無およびConsolidationを観察します[4].

Consolidationとは,肺組織がつぶれて含気不良となり高エコーな不規則な組織になることで,肺炎のほか無気肺,腫瘍, 肺出血でも認められます.もちろんPLAPS以外でも認めうる所見です.


画像はLichtenstein DA. Crit Ultrasound J. 2011;3(2):109-110. より改変引用(Licensed under CC BY 2.0)

以上,BLUE protocolでKeyとなる4所見について紹介しました.このほかに5.下肢DVTと6. Lung pointについておさえれば,BLUE protocolはバッチリです.

5.    下肢DVT

肺エコーが正常だけれども,呼吸不全があるときにはPEの可能性が高まります.BLUE protocolではPEの傍証として,下肢DVTが登場します.


画像はVarrias D. J Clin Med Res. 2021;10(17). より改変引用 (Licensed under CC BY 4.0)

下肢DVTはLinearプローブで総大腿静脈と膝窩静脈の血栓を検索する2-point strategyが有名です(上図左・中央)[1].大腿部はflog regにすると血管がよく描出されます(上図左)[5].

血栓が高エコーに描出される見えることもあります(上図右)が,血栓検出の参考所見として静脈が圧迫で虚脱しない(Compression法),ドプラーでの血流が欠損するという点にも注目です.

2-point strategyは簡易法なので一定の見逃しがあるというのは非常に大切な知識ではあります.ある報告では,近位部のDVTの6.3%は2-point法の観察外にありました[6].しかし迅速な判断をマルチタスクでおこなう救急外来においては,大きな武器になります.

救急外来では超音波検査の所見だけで結論づけるのではなく,他の身体所見,検査所見と組み合わせて,判断材料のひとつにするというコンセプトが大切です.

6.    Lung point

Lung pointはconvexあるいはsectorを用いて観察します.Lung slidingが存在する部分と消失している部分の境界を示し,気胸の存在を示唆します[3].


画像は Lichtenstein DA. 2011;3(2):109-110.より改変引用(Licensed under CC BY 2.0)

上図左がBモード,上図右がMモードの見え方です.気胸の程度や肺の虚脱の仕方によっては見えないこともあります.

以上がBLUE protocolで必要となる所見でした.さらにSonographic interstitial syndromeを少し深掘り、PEにおける右心系の負荷について評価するために、追加所見を取ってはいかがでしょうか?

Sonographic interstitial syndromeの,救急外来における一般的な原因は心原性肺水腫です.みなさんからの設問1への回答も,「心不全」が多かったです.

FoCUS

BLUE protocolの中で,心原性肺水腫を疑ったら,+αとしてFoCUS (Focused cardiac ultrasound)[7]にチャレンジしてみることをオススメします.FoCUSは,ベッドサイドでの迅速で定性的な心臓超音波検査のひとつです.

FoCUSはsectorのプローブを用い,以下に示す5つのviewを中心に検討します[8].

 

 画像出典(男性の胸部のイラスト): BSD studio (via Canva)

 

FoCUSでチェックしたいターゲットとなる所見は以下の6つです[8].

  1. 左室のサイズと収縮能
    1. 左心不全の例: 左室サイズの拡大,収縮能低下
    2. 左室収縮能の評価の例: Ejection fraction(EF),Fractional shortening(FS),MAPSE (Mitral annular plane systolic excursion=僧帽弁輪収縮期移動距離)
  2. 右心系の負荷,右室収縮能
    1. 右心系の負荷の例: 右心系サイズの拡大,左室D-Shape
    2. 右室収縮能の評価の例: TAPSE (Tricuspid annular plane systolic excursion=三尖弁輪収縮期移動距離)
  3. 体液ボリューム
    1. 循環血液量減少の例: 心室や下大静脈の狭小化,左室の過収縮
  4. 心嚢液,タンポナーデ
    1. タンポナーデを来している場合,右室の拡張障害を認める
  5. 慢性心不全の明らかな徴候
    1. 慢性心不全の例: 左室サイズの拡張,
  6. 弁膜症の明らかな徴候,大きな心臓腫瘍

上図はFoCUSで検出される心臓の形態的・機能的変化の一例を模式図にしたものです.

心臓超音波検査は奥が深く,上記はほんの一例です.最初は定性的な評価から始め,徐々に定量的な測定などができるようになることが理想です.

超音波検査は検者間で描出できる画像の質,判断できる病態レベルに差が出やすい検査です.超音波検査だけで診断するというよりは,他の所見と組み合わせて円滑な意思決定に役立てます.

症例のおさらいと,まとめ

以下の図は,今回勉強したBLUE protocolを簡略化するとともに,FoCUSを含めて1枚にまとめたものです.多数の所見が出てきたため,ぜひ頭の整理にご活用ください.

さて今回の症例では,超音波検査をおこなったところ,Lung slidingあり,A lineあり,B lineなし,PLAPSに所見なしでした.追加で,2-point法での下肢静脈エコーとFoCUSをおこないました.

左膝窩静脈に血栓を疑う高エコーがあり,心臓では右室の拡大および左室D-Shapeを認め右心負荷が示唆されました.

PEおよびDVTを強く疑い,血液検査結果が全て出る前に,迅速に胸部-下肢CT(単純+造影)を施行し,確定診断をおこなうことができました.

Take Home Messageをおさらいして今回はおしまいです.

  1. 呼吸困難の鑑別診断にBLUE protocolとFoCUSを活用しよう
  2. 検査結果待ちなどのスキマ時間を有効活用してエコーを当てよう
  3. 救急外来での超音波検査所見は,他の所見と組み合わせて解釈しよう

 では,またお会いしましょう!

参考文献

1. Lichtenstein DA, Mezière GA. Relevance of lung ultrasound in the diagnosis of acute respiratory failure: the BLUE protocol [published correction appears in Chest. 2013 Aug;144(2):721]. Chest. 2008;134(1):117-125. doi:10.1378/chest.07-2800

2. Bekgoz B, Kilicaslan I, Bildik F, et al. BLUE protocol ultrasonography in Emergency Department patients presenting with acute dyspnea. Am J Emerg Med. 2019;37(11):2020-2027. doi:10.1016/j.ajem.2019.02.028

3. Lichtenstein DA, Mezière GA. The BLUE-points: three standardized points used in the BLUE-protocol for ultrasound assessment of the lung in acute respiratory failure. Crit Ultrasound J. 2011;3(2):109-110. doi: 10.1007/s13089-011-0066-3

4. Hendin A, Koenig S, Millington SJ. Better With Ultrasound: Thoracic Ultrasound. Chest. 2020;158(5):2082-2089. doi:10.1016/j.chest.2020.04.052

5. Varrias D, Palaiodimos L, Balasubramanian P, et al. The Use of Point-of-Care Ultrasound (POCUS) in the Diagnosis of Deep Vein Thrombosis. J Clin Med. 2021;10(17):3903. Published 2021 Aug 30. doi:10.3390/jcm10173903

6. Adhikari S, Zeger W, Thom C, Fields JM. Isolated Deep Venous Thrombosis: Implications for 2-Point Compression Ultrasonography of the Lower Extremity. Ann Emerg Med. 2015;66(3):262-266. doi:10.1016/j.annemergmed.2014.10.032

7. Via G, Hussain A, Wells M, et al. International evidence-based recommendations for focused cardiac ultrasound. J Am Soc Echocardiogr. 2014;27(7):683.e1-683.e33. doi:10.1016/j.echo.2014.05.001

8. WINFOCUS: WINFOCUS’ FOCUSED CARDIAC ULTRASOUND (WBE), 2016.