2021.10.07

EMA症例125:9月症例解説

 今回は266名(9/29現在)の方から回答をいただきました。ありがとうございました。参加いただいた方の内訳は次の通りです。非常に多彩な診療科・職種の方に回答いただいており、分娩の現場を肌で知っている産科・小児科の先生方もいらっしゃいました。

もう皆様お分かりの通り、今回のテーマはNCPR=新生児蘇生です。通常であれば産科、小児科で完結することがほとんどです。しかし、新生児の対応は分単位(正確には秒単位)となるため、救急外来での分娩において専門診療科が対応を始めるまでに救急医が果たす役割は無視できるものではありません。滅多にない事象ですが、一方で経験したことのある救急医も少なくありません。今回の症例を通してNCPRの基本を確認していきましょう。

 

問1 この時点で最も心配する疾患や状態を1つ挙げてください。

 多くの方が分娩や異所性妊娠、子宮破裂、常位胎盤早期剝離など、妊娠関連の疾患や症候を回答されています。一方で卵巣癌などの悪性腫瘍による症状を懸念された方もいらっしゃいました。

問2 この時点で新生児に行う処置を選択してください(複数選択可)
問3 現時点での対応を選択してください。(複数選択可)

       
 救急外来での予期せぬ出産では、専門診療科が不在の中、母体と新生児の双方に対応する必要があります。今回はテーマと外れるため取り上げませんが、母体の安全を確保する、特に産後大出血に対して適切に対応できることはとても重要です。まずは人手を集め、院内にたまたま残っていた医師であっても協力をお願いして、迅速に評価と対応を進める必要があります。

 これから具体的なアルゴリズムの解説を行いますが、その前に新生児蘇生の疫学を確認しましょう。まず、新生児の約85%は出生後10-30秒以内に自発呼吸を始めるとされます。10%は刺激と乾燥に反応して呼吸を始め、約5%は陽圧換気で良好に反応します。2%に挿管が必要となり、胸骨圧迫が必要となったのは0.1%、アドレナリンに至ってはわずか0.05%です [1]。もうお分かりかと思いますが、NCPRはいかに呼吸を担保するかがカギを握っており、マスク換気までができれば新生児のほとんどに対応できることになります。こう考えると、非専門医でもなんとか頑張ってみる甲斐がありそうですよね。もはや医師である必要もありません。マスク換気のできる医療者であれば全員が、新生児蘇生において十分な役割を果たすことができるのです。



図1.NCPRアルゴリズム([2]より引用)

■出生直後のチェックポイント

 では、いよいよNCPRの流れに従って対応を確認していきましょう。まずは「早産児」「弱い呼吸・啼泣」「筋緊張低下」の確認です。症例では「早産児」以外は明確に該当しています。また、母親が未受診妊婦ですので、定型的な評価を受けてきていないリスクを鑑みると仮にすべての項目に該当しない印象があっても、該当した場合と同じように次のステップへ進むのが安全でしょう。

■保温、体位保持、気道開通、皮膚乾燥と刺激

 先ほどの項目に該当したからといって、いきなり人工呼吸を始めるわけではありません。もっと低侵襲でできることから始めましょう。

 【保温】36度以下の低体温は有害事象との関連が示されており、新生児の体温保持(36.5-37.5度)は重要な初期対応とされています。まずは部屋の温度を23-25度に設定し、体表面の羊水をふき取ります。ラジアントウォーマーがなくとも、ラップや温めたタオルなどを組み合わせて対応しましょう。

 【体位保持】新生児は体幹に比して頭部が大きいため、肩枕なしの状態では頸部が屈曲してしまいます。タオルなどを畳んで肩枕をすることによって気道が開通しやすくなります。ただし、後屈が強くても気道が閉塞してしまうため、中間位を推奨するガイドラインもあります。また二人法による下顎挙上も検討してよいでしょう [3]

 




図2.気道確保([3]より引用)

 【気道開通】状態が安定している新生児においてルーチンでの吸引は胎便汚染があったとしても不要とされています。しかし、呼吸の妨げになっていると考えられるのであれば口や鼻からの吸引を検討しましょう。ただし、胎便吸引症候群の場合でも、閉塞所見が乏しい場合にルーチンでの喉頭展開や気管内吸引は不要とされています。

 【皮膚乾燥と刺激】触覚刺激は自発呼吸を促進する可能性があり、早産児において酸素化の改善が報告されています。ただし、体を拭いたり、背中や足底をこすったりする程度にとどめるべきと提言されています。

■呼吸、心拍確認、SpO2モニター装着

 前述の対応で呼吸の状態が改善するかを評価しながら、さらなる処置を要するか確認する準備を行います。動脈管による酸素飽和度への影響を避けるため、SpO2モニターは右手掌もしくは手首に装着します。心拍数は聴診でカウントするのが古典的な方法ですが、心電図モニターの方が迅速性・正確性に優れるとも報告されます。ここから先のアルゴリズムは心拍数が重要な因子となるため、過小評価は不要な介入に、過大評価は必要な介入の遅れにつながるため、特に理由がない限り心電図モニターを利用するのが良いでしょう。

■心拍数の確認から陽圧換気まで

 さて、理想的にはここまでを60秒以内に行うことになっています。後ほど記載する通り、分単位の状態が目の前の新生児の長い将来に大きな影響を与える可能性があるため、時間を意識した診療が必要とされます。

 HR≧100回/分の場合は慎重に様子を観察しながら、適宜酸素投与やCPAPの開始を検討し、適切な診療科へ引継ぎを行うのが主になります。(もちろん、院内に対応できる科がない場合は転院搬送の調整が必要です。)

 HR<100回/分の場合、バッグバルブマスクなどによる陽圧換気を実施します。前述の疫学のとおり、ほとんどの新生児は陽圧換気までで反応が得られるため、この時にHR<60回/分であったとしても胸骨圧迫をするわけではありません。

■陽圧換気について

 正期産以降であればFiO2:0.21(室内気)、早産児であればFiO2:0.21-0.3(少量酸素)で開始し、経過時間ごとの目標SpO2に合わせて調整するのでよいとされています。これは、高濃度酸素で開始した場合に死亡率や神経発達に明らかな有益性が示されていないことに加え、高濃度酸素による酸素毒性が懸念されているのが理由です。今後の研究によっては変更があるかもしれません。

 新生児の肺は呼吸によってようやく膨張が始まるため、陽圧換気の際に持続的に肺を膨張させた方がよいのではないかという議論があります。正確な結論は出ていませんが、少なくとも5秒以上の持続膨張を支持する根拠は乏しいのが現状です [1] [4]。一方でEuropean Resuscitation Councilは蘇生にあたり、2-3秒の持続膨張を5回行うことを推奨しており、今後の研究が期待されるところです [3]。新生児の生理的な吸気時間は0.3秒程度のため、エキスパートオピニオンではありますが、40-60回/分の換気が推奨されることもあります[4]

■陽圧換気開始から胸骨圧迫まで

 陽圧換気を開始して30秒経過してもHR≧100回/分が得られない場合には、胸骨圧迫が検討されます。ただし、適切に換気が行われていない可能性があるのであれば、吸引や挿管などによる可能な限りでの換気の確実な担保を行う必要があります。それでも胸骨圧迫が必要なのであれば、エキスパートオピニオンにはなりますが100%酸素投与へ切り替えが推奨されています [3] [4]。胸骨圧迫は両手で児を包み込むようにし、2本の拇指で圧迫する方法が推奨されています [1]。胸骨圧迫3回に対して換気1回(1分間で90回の胸骨圧迫と30回の換気)を行いましょう。

■薬剤投与

 非常にマレではありますが、100%酸素による陽圧換気+胸骨圧迫を行ってもHR<60回/分が継続する場合はアドレナリンの投与が検討されます。胸骨圧迫開始後30秒-60秒を目安と記載しているものもありますが、ガイドライン上も記載がない場合があります [3] [5]。アドレナリンの用量は0.01-0.03mg/kg(静注)、0.05~0.1mg/kg(気管内)とされています。静脈路は臍帯静脈が第一選択とされており、難しい場合には骨髄路を選択しましょう。Volume負荷としての輸液は出血が疑われる場合とされていますが、蘇生の現場での判断は難しいため、蘇生に反応が乏しい場合には10mL/kgの細胞外液投与を検討してもよいとされます。

 

 問4:現時点でのApgar scoreはいくつでしょうか?

 

■臍帯クランプ

 ここまでのNCPRの流れに臍帯をどうするかが出てきませんでした。切断する際は2カ所でクランプしてその間を切断します。鉗子がなければ絹糸で結紮するのでもよいでしょう。早産児において臍帯クランプを出生後30秒以上遅らせる「delayed cord clamping」が、その後の輸血の必要性を減らす、死亡率が低下するなどの報告はありますが、正期産以降でははっきりしたメリットは証明されていません。そして、陽圧換気などの蘇生を要する新生児においては、ほかの処置の都合上、母体から離れる必要があるため研究のInclusionからは外されているのが現実です。「delayed cord clamping」が出来ない場合に臍帯のミルキングが検討される場合もありますが、早産児においては脳室内出血との関連も示唆されており、いずれにしても非専門医が手を出す領域ではないでしょう [3] [4]

図3.Expanded Apgar score reporting form([6]より引用)

 Apgarスコアは「チアノーゼの有無」「心拍数」「反射」「筋緊張」「呼吸」でそれぞれ0-2点で算定し、合計0-10点となります。新生児蘇生の際には行った処置内容も並行しての記載が望ましいため、図のようなシートを提案しているものもあります。Apgarスコアは新生児の生理学的状態を示すものであり、検者の主観的な要素も含まれていることから、単独で目の前の児の予後を判断してはいけないとされます [6]。実際、今回の症例でも7-9点とした方が多かったものの、非常に幅広い点数が回答されています。10分以上にわたってCPRを要したスコア低値のグループであっても、37.5%は中等度以上の神経発達遅滞を生じなかった報告もあり、判断は慎重になされるべきとされています [1]。したがって、蘇生に反応しない新生児においてNCPRをどのタイミングで中止するかは依然として困難なテーマであり、臨床チームおよび家族との話し合いが必要だろうとされています。エビデンスが乏しい領域ではありますが、20分の蘇生行為に反応しないことは方針転換を検討する一つの目安となるでしょう [1] [3] [4]

 ■未受診妊婦

 病院を受診していない妊婦は実際に存在し、今回の症例のように飛び込み分娩に至って病院が騒然となることがあります。未受診には種々の要因があるだろうとは推測されますが、「Concealment」と「Denial of pregnancy」という状態がありうるということを紹介いたします。

 「Concealment」は、妊婦は妊娠を自覚しているが、周囲に対して隠ぺいしている状態です。厳しい宗教教育や婚前交渉に対するタブー視が影響することも示されています [7]

 「Denial of pregnancy」は妊娠そのものを自覚していない状態です。以前は学習障害や精神疾患の既往、薬物中毒などとの関連が疑われていましたが、そのような因子を持つ場合はむしろ少数派と言われるようになっています。報告は限られていますが、妊娠20週の時点で475人に1人、分娩の時点で約2500人に1人とされており、極端に珍しいというほどの発生率ではない点が驚きです [8]。いずれも非アジア圏での報告のため、文化的背景が異なる日本にそのまま当てはめるわけにはいきませんが、妊娠を自覚しない妊婦が救急外来を受診することは、まったく有り得ない話ではないと受け止めなければいけません。

■最後に

 専門診療科がいない状態での分娩は出来るだけ避けたいのが本心ですが、いざ目の前に現れた場合はそんなことも言っていられません。何かできるのは現場にいる医療者であり、目の前の新生児が必要としているのは、特別ではない通常の処置のことが多いのです。

<Take Home Message>
・NCPRは秒単位。専門医が到着する前の行動が必要。
・NCPRのほとんどは陽圧換気までで対応できる。
・Apgar(5分)7点以上が理想だが、低くても諦める理由はない。
 

<参考文献>

1. Resuscitation. 2020 Nov;156:A156-A187. PMID: 33098917.
2. JRC蘇生ガイドライン2020.
3. Resuscitation. 2021 Apr;161:291-326. PMID: 33773829.
4. Pediatrics. 2021 Jan;147(Suppl 1):e2020038505E. PMID: 33087555.
5. Pediatr Clin North Am. 2019 Apr;66(2):309-320. PMID: 30819338.
6. Pediatrics. 2015 Oct;136(4):819-22. PMID: 26416932.
7. Acta Obstet Gynecol Scand. 2007;86(5):542-6.  PMID: 17464581.
8. J R Soc Med. 2011 Jul;104(7):286-91. PMID: 21725094.