2021.07.03

EMA症例122:6月症例解説

2021年6月の教育班症例には、282名の方にご参加いただきました。ご回答をいただいた皆様の属性は以下のとおりです。

その他の属性としては、診療看護師、訪問看護師、診療放射線技師、小児科、泌尿器科、外科とお答えいただきました。皆様、どうもありがとうございます。

今月は、先月からガラリと変わってマイナーエマージェンシー分野のアイディア一発勝負でした。おばあちゃんの知恵袋的な知識ですが、選択肢として知っているか知らないかで患者さんの対応に大きな差が出るのではないかと思い、取り上げました。

まず、「設問1:どのような検査を実施しますか?」についての回答は、

  • レントゲン:262名(92.9%)
  • エコー:13名(4.6%)
  • CT:7名(2.5%)
  • MRI:0名(0%)
  • 検査をしない:0名(0%)

と、圧倒的にレントゲンを選択いただきました。

本症例の場合は、ミシン針が末節骨を貫通した可能性を否定できないことから骨折の有無の確認が必要で、その場合レントゲンがゴールドスタンダードです。関節部や骨が重なる部分(手根骨や足根骨など)以外では、CTは不要です。

異物の確認に関しては身体診察で明らかな場合がほとんどですが、軟部組織の中にすっかり隠れてしまった異物も、画像検査で捜索できます。異物のうち80-90%はレントゲンで確認できるので(1)、異物が疑われる場合や患者が異物の存在を訴える場合はレントゲンの確認が有効です。ガラス片の場合、サイズが2mm以上であれば99%検出できたという報告もあり(2)、レントゲンの感度は良いと言えるでしょう。レントゲンの撮影時には軟部組織撮影の2方向で撮影し、画像の確認時にもモニターであれば輝度とコントラストを明るく調整することで軟部組織との境界が明瞭となり異物が確認しやすくなります(1)(2)。一方、木片、プラスチック片、アルミニウム片、草木のとげ、などはレントゲン透過性ですので、超音波での検索が次の選択、代替案としてCTを考えます。MRIは、レントゲンで金属異物が残存していない場合には最も感度が高い検査ですが、時間がかかるので救急外来での選択肢にはなりにくいでしょう。

参考に、各異物のCT値を掲載します。

 

HU

金属

3863-15363

ガラス

540-1740

50-80

2200-2900

アクリル

80-130

鉛筆の芯

750-1036

ベークライト

85-170

80-110

筋肉

55-65

空気

-1024

※HU:ハンスフィールドユニット
参考文献(3)より改変

超音波検査については4.6%の先生方に選んでいただきました。救急外来での超音波検査が身近になり、異物の確認のためにも多用されていると想像します。表層の異物ですので、超音波検査では高周波リニアトランスデューサを用います。異物は一般的に高輝度の物体として描出され、金属では多重エコーやコメット状のアーチファクトを生じやすいです(1)(4)。指や指の股などにある皮下異物でエコープローべがぴったりとフィットせず描出が難しい場合は、手全体を水や温水の中に浸して検査すると、描出がよくなります (5)(6)

次に、「設問2:どのように麻酔しますか?」の回答は

  • 局所浸潤麻酔:23名(8.4%)
  • 指ブロック:249名(90.9%)
  • 麻酔はしない:2名(0.7%)

でした。

指ブロックが圧倒的な人気であり、みなさま患者の痛みに丁寧に対応されていることが伺えます。指全体に及ぶ手技であれば指ブロックの方が望ましいでしょう。

「設問3:どのように折れたミシン針を抜去しますか?」については、回答が分かれました。

  • 指腹側から自分の指で圧迫してみる:29名(10.2%)
  • 刺入部から鑷子で探索しながら付近を最小限に切開する:87名(30.7%)
  • 透視下で確認しながら付近を最小限に切開する:92名(32.5%)
  • 外科/整形外科にコンサルトして手術室での処置を検討する:69名(24.4%)
  • 他の名案(自由記載:)

でした。自由記載で回答いただいたものとしては、

  • 別の針で、残存している針のお尻から押して逆側から引き抜く
  • エコーで位置を確認しながら付近を最小限に切開する
  • 指腹部の創部の両横に自分の示指と中指をあてて、爪側を親指で圧迫して先端を腹側から押し出してモスキート鉗子でひっこぬく
  • 押し込む
  • 介助者が指の腹を押して刺出部から針の先端が見えたら把持して引き抜く
  • 指腹側から鉗子の面を使って押し出す

むやみな切開ではなく、なんとか針を引き出す方策がないか考えていただいた方が多かったようです。詳細に記載いただきありがとうございます!

救急外来での皮下異物の緊急摘出の適応は、除去を試みるリスクと異物をそのままにすることのリスクの判断が必要になります。草木のトゲや動物の歯など感染のリスクが高い異物や、異物が血管や骨折部位に近い場合、神経や腱に刺入している場合などは同日の除去の適応です(1)。異物除去のリスクが大きく同日除去の適応がなければ翌日以降の専門医再診が可能です。ただしそうはいっても、手は動きが大きく感覚も鋭いため、手の異物は同日の除去が原則となります(1)

まず、一般的な異物除去方法について触れます。表面から針を確認できない折れたミシン針は伏針(retained needle)の状態であり、一般的に除去が困難であることを認識し患者に説明しておきます。本症例でも見られるように、伏針では受診時には刺入部がわかりにくいことが多いです。指の場合は問題になりませんが、足底など針が刺入する瞬間がわからない場所であっても患者が針を刺入したと訴える場合には必ずレントゲンを確認しましょう。また、垂直方向に刺入している異物は軟部組織の間に紛れやすく除去が難しいことも認識しておく必要があります(1)

超音波または透視で位置を確認しながら切開を行います。本症例の場合、指の中に残存しているミシン針がかろうじて触れるので、単純に触知しながら探索する方法でうまくいきそうです。一般的に、異物が表層にある場合は、異物の全長にわたってメスで切開を行い異物を露出し除去します。本症例のように異物が垂直方向に刺入している場合は刺入した方向に可能な限り深く切開することが基本となります。今回のように末節骨の直上まで針が到達していることがわかっている場合は指先の血管や神経を損傷する可能性があり、針がうまく抜けない場合は専門医へのコンサルトが必要かもしれません。また、わかりにくい異物が埋没していて、10-15分経過しても異物を特定できない場合も、それ以上の探索はせず専門医を依頼して手術室での処置を検討します(1)

さて、本症例では実際どのようにしたのでしょうか?

相談を受けた指導医はある方法を専攻医に伝えました(7)。すると、専攻医はおもむろに自分の50円玉を財布から取り出しました。そして、じんわりと創部を圧迫し5分ほどでミシン針の先端が目視できたので持針器で把持して抜去しました。つまり、穴のあいたコインを使い、コインの穴を異物が刺さった部位に強く押し当て、異物が浮き出してきたところを把持して除去する、という方法です。

 
図1:50円玉を押し付ける様子(イメージ)


図2:ミシン針抜去後の創部と抜去された針

原理的には入った通り道を通って出る原理なので、針以外にも植物のトゲや魚介類のトゲによる異物にも応用できます。刺さった表面に関してはある程度柔らかい必要があり、指や足の裏、顔などは良い適応でしょう。ただし”かえし”のついた釣り針などには個別の配慮が必要ですので、釣り針の抜去方法をご参照ください。

穴のあいたコインは世界的には珍しく、例えばアメリカやイギリスにも穴のあいたコインはありません。他のコインとの区別や鋳造費用の軽減のために、5円玉や50円玉は穴のあいたデザインになったそうです(8)。確かに、日本の50円玉は100円玉とサイズや素材が似ていて、穴がなければわかりにくいだろうと想像します。

5円玉は黄銅、50円玉は白銅でできており、一般的に紙幣に比べてコインは清潔かもしれませんが、アルコール綿で軽く拭いて使用する方が気持ちが良いでしょう。

麻酔はした方が良いと思います。押される痛みですので、指ブロックで指全体を麻酔するのが理想です。また、本症例でもミシン針の先端が把持できるようになるまで5分かかっており、侵襲は少なくてすみますが時間がかかることを患者さんにあらかじめ説明しておくとよりスムーズです。先端が把持できれば、ミシン針の抜去自体に力は不要です。

破傷風に関しては基礎免疫があったため追加接種をし、抗生剤の処方はなしで帰宅としています。帰宅時には感染兆候について説明し、感染兆候があれば再診、そうでなければ終診としました。

”巣ごもり需要”によりミシンの売上げは伸びているそうです(9)。ミシン針貫通の患者さんは、明日あなたの勤務する救急外来にやってくるかもしれません。そんな時にはぜひこの5円玉・50円玉を利用する方法を思い出してくださいね。

それでは今後ともEMA教育班をお願いいたします!

<Take home message>

1 金属片の皮下異物では必ずレントゲンを確認する

2 穴の開いたコインを使用して指異物の除去ができる

3 コインを使用する方法は低侵襲だが数分を要する可能性がある

 

<参考文献>

  1. フィリップ・バタラヴォリ, スティーヴン・M.レフラー マイナーエマージェンシー原著第3版 齊藤 裕之 (編集), 大滝 純司 (翻訳) 2015年 医師薬出版株式会社p647-657
  2. Courter BJ: Radiographic screening for glass foreign bodies: what does a “negative” foreign body series really mean? Ann Emerg Med 19: 997, 1990.
  3. M H Aras, O Miloglu, C Barutcugil, M Kantarci, E Ozcan, and A Harorli. Comparison of the sensitivity for detecting foreign bodies among conventional plain radiography, computed tomography and ultrasonography. Dentomaxillofac Radiol. 2010 Feb; 39(2): 72–78.
  4. Barr L, Hatch N, Roque PJ, Wu TS. Basic ultrasound-guided procedures. Crit Care Clin 30: 275, 2014.
  5. emDocs “US Probe: Ultrasound Water Bath for Distal Extremity Evaluation” http://www.emdocs.net/us-probe-ultrasound-water-bath-for-distal-extremity-evaluation/ (最終閲覧2021年6月25日)
  6. Judith E. Tintinalli, M.D. Stapczynski, J. Stepha, O. John, Yealy, Donald M, Meckler and Garth D. TINTINALLI’S EMERGENCY MEDICINE: A Comprehensive Study Guide, Eighth edition. Chap 45. 2016, McGraw-Hill Education.
  7. 「トゲが刺さったときには5円玉が便利ですhttps://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/saigai/yakudachi/life/tips/1100197504652595201.html(最終閲覧2021/6/22
  8. 日本銀行ホームページ「5円玉や50円玉に穴があいているのはなぜですか?」https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c20.htm/ (最終閲覧2021/6/22)
  9. 朝日新聞DIGITAL「「巣ごもり需要」でミシン復調」」https://www.asahi.com/articles/ASP384SXKP2LPLFA004.html(最終閲覧2021/6/22)