2020.01.17

EMA症例12:1月症例解説

皆様、今年一発目(といいながら遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m)の症例はいかがだったでしょうか?

今回の症例では
#発熱 
#皮疹 
#肝機能障害
をプロブレムとして考え、これらの原因になる病態として,「Q1」の選択肢に挙げたいずれもあり得ると考えました.

感染症
・細菌感染 (特に敗血症, トキシックショック症候群, SSSS, 髄膜炎菌敗血症, 胆嚢炎・胆管炎…)
・ウイルス感染(伝染性単核球症, 肝炎, 麻疹, 風疹…)
自己免疫疾患(SLE、DM、リウマチ熱、PN…)
薬剤(薬疹, TEN, DIHS…)

すぐに血液培養・尿培養は提出し, (肝機能異常も目立ったので)腹部エコーをあてつつ, 選択肢にも挙げた問診・身体所見を追加で取りました.
「周囲の病悩者」はなく、「詳細な家族歴」で追加情報はありませんでした.
敗血症の中でもIEを鑑別に挙げての「抜歯歴」はなし.
関節の所見や、TENの特徴であるような「粘膜所見」もなし.
「詳細な薬剤歴」を聞いたところ…
■-1月の神経内科入院中に下記薬剤の使用歴があることが分かりました.
CTRX(ロセフィン), アシクロビル(ビクロックス), フェニトイン(アレビアチン), ワーファリン ガスター

…と、お気づきのように, フェニトインの使用歴という特徴的な病歴が判明し,
「薬剤過敏性症候群 Drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS」を疑いました.
DIHSは『高熱と臓器障害を伴う薬疹で, 薬剤中止後も遷延化する. 多くの場合, 発症後2~3(4)週間後にHHV-6の再活性化を生じる.』と定義されています.(厚生科学研究 2001橋本研究班試案)
主要所見として以下があり,今回の症例では1~5が合致しました(1~7の全てが合致すれば典型的DIHS. 1~5が合致すれば非典型的DIHS.)
1. 限られた薬剤投与後に遅発性に生じ, 急速に拡大する紅斑 多くの場合, 紅皮症に移行する
2.原因薬剤中止後も2週間以上遷延する
3.38℃以上の発熱
4.肝機能障害
5.血液学的異常:a,b,cのうち1つ以上
a.白血球増多(11,000/mm3以上) b.異型リンパ球の出現(5%以上) c.好酸球増多(1,500/mm3以上)
6.リンパ節腫脹
7.HHV-6の再活性化

DIHSは、以下のような限られた薬剤によって発症するので、疑うことが大事です。
カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,ゾニサミド [抗てんかん薬]
ジアフェニルスルホン(DDS) [抗ハンセン病薬]
サラゾスルファピリジン [サルファ剤]
メキシレチン [不整脈治療薬]
アロプリノール [痛風治療薬]
ミノサイクリン(本邦での報告はなし)

治療としては
・原因薬剤の中止
・ステロイドの全身投与(プレドニソロン換算0.5~1mg/kg/dayから開始しゆっくり漸減)
・ステロイドパルス(mPSL 1~2g/dayを3日間点滴静注)
・免疫グロブリン (0.4g/kg/day 3~5日を1クールとして)
があり,今回の症例では入院翌日からプレドニン50mgの内服を開始. 漸減中に一度再燃を認めたためステロイドを増量しましたが, その後は再燃することなく減量でき,退院の運びとなりました.
ちなみに HHV-6 IgG抗体価の上昇は認められませんでした.

今回のポイントとして…
・発熱+皮疹に対して、薬疹を鑑別に挙げることを忘れず、薬剤使用歴については詳細に聞いておこう
・DIHSという特徴歴な薬剤によって生じる薬疹を覚えておこう
  →皮疹と臓器障害の重症度は発症から薬剤を中止するまでの期間に相関するので、疑って中止することが大事!
    完全に回復することが多いが、致死的になる例もある.
発症後に使用した薬剤に対しても過敏反応(多剤感作)が認められることがあり、高熱があるからといってNSAIDsや抗生剤を安易に使用するべきでない点も大事ですね.

最後に、皆さんが答えてくださったアンケートの集計結果を掲載します.参加くださった皆さん、ありがとうございました!

どんな病態を考えますか?

1201a1

追加で聞きたい問診事項・知りたい身体所見は?(複数選択可)

1201a2

施行したい検査は?(複数選択可)

1201a3

治療はどうしましょうか?(複数選択可)

1201a4

ずばり一番疑う診断は?(自由記載)
SJS 9件、TEN 6件、DIHS 3件、他に薬剤性紅斑、多型滲出性紅斑、TSS、亜急性心内膜炎、疥癬、カポジ水痘様発疹症、ssss、血球貪食症候群、重症薬疹など