2021.02.01

EMA症例117:1月症例解説

2021年最初の教育班症例にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
ご参加いただいた皆様の属性は以下のとおりです。いつもよりも学生や初期研修医の方の割合が多かったようです。

 

図1:回答者の属性

 

さて、先月の「小児の腹痛」から「小児」つながりで今月は「小児の発熱」でした。
普段から小児を診察している人にはかなり答えやすかったのではないでしょうか?また、写真からピンときた人も多かったことと思います。

 まず、「設問1:追加したい問診・身体診察・検査はありますか?」については、多かった回答として、問診では保育園での流行状況:7名、突発性発疹の既往:6名、検査ではインフルエンザの迅速検査:12名、心エコー:5名、尿検査:4名などがありました。その他、主なものを多かった順に下にお示しします。

  表1:追加したい問診・身体診察・検査

 

「設問2:帰宅させる際、どのように説明しますか?」の回答は

1       再受診のタイミングについて説明する

2       現時点での診断(判断)や今後予測される経過を説明する

3       帰宅後の過ごし方、対応を説明する

の3つに大きく分けられました。

 上記の内容が疾患や症状毎に記載してある「帰宅時指示書」を印刷して手渡ししている病院もありますが、患者さんへの説明はとても重要です。

COVID-19による世界の混乱をみても、非医療従事者の常識や理解度は、医療従事者のそれとは大きく異なることが改めてわかったのではないでしょうか。

例えば「熱が続いたらきてください」という説明だと、数時間後に再受診する人や、解熱剤の効果が切れたタイミングで来院してしまう人もいらっしゃいます。

「水が飲めなくなる、食欲低下があればきてください」では、具体的にどのくらいの間隔で経過を見て、どれくらい減っていたら再診するべきなのか、わからない人もいるでしょう。救急外来に再来するべきなのか、かかりつけ小児科、または総合病院の小児科を受診するべきなのか悩む人もいるかもしれません。

 

また「〜〜な時にはまた来てください」だけでなく、現時点での診断や今後予測される経過について説明があれば、保護者も病状への理解がより深まるはずです。

忙しい救急外来で説明の時間をしっかりとるのはなかなか難しいと感じるかもしれませんが、一つ一つの説明が不必要な再受診を減らすかもしれないと思えば頑張れる気がしないでしょうか。

皆様の回答をいくつか、ご紹介いたします。(固有名詞を伏せるなど一部修正していますのでご了承ください)

 「痙攣があっても慌てない、○分以上続いたら救急車呼んでも良い、水分しっかり摂って、発症早期であり解熱はすぐしなくても心配ない、飲水できない・ぐったりするは危険なサイン、○日間続いたら再診を、発疹が出たら写真に撮ってね、など」

 「確かに熱が高いと辛そうですが、しっかり水分が取れていればおうちで様子を見れそうですよ。解熱剤を適宜使って、体が楽になって機嫌がよくなったタイミングならごはんを食べてくれるかもしれません。もしぐったりして水分も取れなくなったり、おしっこの量が減ってきたりしたらまた病院に来てください。」

 「現時点では急性上気道炎と診断します.全身状態が比較的良いので,自宅で経過を見て良いです.食事に制限はありませんが,固形物がつらいようなので,経口補水液などを少量ずつこまめに与えるなどして,水分,塩分,糖分が不足しないよう気をつけて下さい.解熱薬は根本解決にはなりませんが,症状を和らげるために使用しても構いません.もし,ぐったりして反応が鈍い,呼吸が苦しそう,嘔吐頻回など状態が悪化したら速やかに再診して下さい.そうでなければ,多くの場合は数日で自然軽快します.ただし,38以上の発熱が4-5日(つまり明後日以降も)続く場合は,状態が変わらなくても小児科を受診して下さい.」

 「現時点では感冒の可能性が高いがBCG痕の発赤があることから川崎病の可能性もある。単なるウイルス感染でもBCG痕が発赤することもありうるからものすごく心配はしないでください。そして、ネットで川崎病について調べたい場合はきちんとした大学病院や国立の施設のホームページを見てください。個人のブログなどでは一部にはどうしても誤りや思い込み、嘘が混じっています。個人的には○○(雑誌名)あたりが説明として過不足ないと思います。ただ、育児書コーナーにあるからと言っても信用できない記述も多いので○○(雑誌名)は私も読んだのである程度信用しています。そのうえで症状が出た場合は川崎病症状が出てくるのでその際に受診してほしい。また経口摂取不良や発熱が5日間持続する場合も来院してほしい。」

 

「設問3:どのように診療を進めますか?」については、図の結果となりました。その他としては、麻疹を念頭において空気感染予防や保健所への連絡といったものや、心エコーで冠動脈を観察するなどの回答がありました。

 図2:今後の方針

 さて、今回の症例は軽度の咳/鼻水と発熱2日目で救急外来を受診し、BCG痕の軽度の発赤はあるものの、それ以外に所見がなく、母、兄とも同じ症状があったため、かぜ症候群の診断で一旦帰宅となりました。

その後全身に発疹が出現したため翌日(発熱3日目)に再受診し、BCG痕の発赤も増悪していたため(問題編の写真参照)、川崎病を疑い小児科へコンサルトとなりました。

経過観察中に出現した手指の浮腫とあわせて3主要症状と、小児科医による心エコーにて冠動脈病変も確認され、溶連菌やアデノウイルスの迅速検査の陰性が確認されたのちに不全型の川崎病としてIVIGとアスピリンが開始されました。

 

<川崎病の診断>

川崎病といえば、北米のドラマERのシーズン1で学生だったカーターがベントンにプレゼンしていたのが印象深いです。

 国家試験的には4歳以下の乳幼児で5日以上持続する発熱、眼球結膜充血、いちご舌、手指の硬性浮腫や落屑、不定形発疹の症状で、冠動脈病変に注意、といったキーワードがでてきますね。

救急外来でも発熱5日目をキーワードに川崎病を鑑別に入れたり説明をしたりすることが多かったかと思います。

2019年に実に17年ぶりに川崎病の診断基準が改訂されたのをご存知でしょうか?日本川崎病学会のホームページで改訂された第6版をダウンロードすることができます。1)

主要症状は以下のとおりです。大きな変更点を赤字にしています。

 表2:川崎病の診断基準 主要症状

 これに参考条項が加わります。その他、参考条項については日本川崎病学会の診断の手引きをご確認いただければと思います。1)

 

新しい診断基準では実際の臨床現場での検討方法に、より沿うことが意識されています。

「5日以上続く」「ただし治療により5日未満で解熱した場合も含む」が削除され、発熱日数は問われなくなりました。

これは、実際の臨床では5日を待つことなく川崎病と診断されてIVIG治療が開始される例が約45%(約10%が第3病日以前)と多いことが考慮されました。

また、「発疹(BCG痕の発赤を含む)」がはっきり記載されたのも大きな変更点です。

BCG痕の発赤は川崎病患児の約50%に初診時からみられる特徴的な所見の1つとして知られていましたが2,3)ワクチン接種後1年ほどまでの年齢でしかみられないことや、米国などではBCG定期接種が行われないことなどから主要症状には記載されていませんでした。しかし、BCGが接種されるアジア諸国で川崎病の診療機会が急激に増加していることや、診断に有用な所見であるとの意見が多いことから今回主要症状に組み込まれました。4,5)

頸部リンパ節腫脹は年少児では頻度が少ないものの、年長児ではしばしば他症状を認めず、発熱とともに初発症状となることがあるため「3歳以上では約90%にみられ、初発症状となることも多い(超音波で多房性を呈することが多い)」ということが備考に追記されています。

 <Take home message>

・予測される経過を具体的に説明することで、保護者の理解を深め不要な再受診を減らそう!

・川崎病の診断基準が変わっているよ!

・発熱は5日なくてもいいよ!

・BCG痕の発赤はやはり特徴的なのではっきり明記されたよ!

 

<参考文献>

1) 日本川崎病学会の診断の手引きhttp://www.jskd.jp/info/pdf/tebiki201906.pdf

2) Uehara R et.al. Kawasaki disease patients with redness or crust formation at the Bacille Calmette-Guérin inoculation site. Pediatr Infect Dis J 2010; 29:430-3

3) Seo Ji Hye et.al. Diagnosis of Incomplete Kawasaki Disease in Infants Based on an Inflammation at the Bacille Calmette-Guérin Inoculation Site. Korean circulation journal. 2012;42(12):823–829.

4) Omer S.M. Suliman et.al.Incomplete Kawasaki disease: The usefulness of BCG reactivation as a diagnostic tool. Sudan J Paediatr. 2012; 12(1): 84–88.

5) Mohammad Sadegh Rezai et al. Erythema at BCG Inoculation Site in Kawasaki Disease PatientsMater Sociomed. 2014 Aug; 26(4): 256–260.