2020.01.17

EMA症例11:12月症例解説

12月症例の解説です

今回の症例は、沖縄県立中部病院救命救急科の中島 義之先生が提供して下さいました。中島先生ありがとうございました。

さて、この症例は最初の病歴からは様々な疾患が鑑別に挙がります。

Yo-jo先生もコメントして下さいましたが、この病歴を聞くとあわてて患者さんの様子を直接見に行く救急医は多いのではないでしょうか。

この患者さんの経過を簡単にお伝えします

開口障害、muffled voice、呼吸困難があり急性喉頭蓋炎/咽後膿瘍を疑い頸部側面レントゲンが施行されました。

頸部レントゲンはこちら

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続いておこなわれた鼻咽頭ファイバーでは

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喉頭蓋、披裂部、咽頭後壁に著明な浮腫があり、声帯の動きは正常ですが気道は非常に狭くなっていることが確認されました。

CTでは

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左下顎および上咽頭〜中咽頭、甲状腺上葉にかけて咽頭後壁に正常組織に比べ高吸収域が認められ、浮腫が及んでいることが示唆されました。

画像上、膿瘍形成が否定的であること、重力に不一致の片側性の浮腫、半年ほど前から指や舌が浮腫むことがたびたびあり、自然軽快していたことがわかりました。
以上の経過から、この患者さんの最終診断は血管性浮腫(angioedema)となりました。

患者さんは、ステロイド投与、ボスミン吸入が開始され入院となりました。気道管理に関しては、耳鼻科医と相談の上現時点では挿管を行わず経過観察となりました。
発症2日目には症状が完全に消失し、3日目に退院となりました。

血管性浮腫(angioedema)は、皮下または粘膜下組織に突然発生する現局性の一過性の浮腫です。

<症状>
・特徴:圧痕を残さない現局性・非対称性の浮腫で、蕁麻疹のような掻痒を伴わないこと
・発症部位:体のどの部分にも生じるとされますが、好発部位は顔面や舌、口唇、咽頭です。
・急速に進行し呼吸困難を呈し、気道確保が必要となることがあり注意が必要です。上気道に生じた場合、無治療での死亡率は25%~40%という報告があります。

<原因>
・大きくは遺伝性と後天性に分かれます。
・遺伝性:C1エラスターゼインヒビター欠損が知られています。
・後天性:特発性、IgEが関与するⅠ型アレルギー、ACE阻害剤の副作用などがあります。
・ACE阻害薬による血管性浮腫:他の原因による血管性浮腫と比較し後咽頭の浮腫を来しやすいとされており、重症例も多く注意が必要です。

<治療>
・鼻咽頭ファイバーで喉頭気管に浮腫がある→気道確保を行い入院が必要です
気道確保に関しては、覚醒下でのファイバー挿管を考慮します
・喉頭気管に浮腫がない場合
軽症であれば抗ヒスタミン薬(例:ジフェンヒドラミン)・ステロイド(例:メチルプレドニゾロン)の投与
気道の症状が強い場合は上記に加えボスミンの吸入が行われます。

<マネジメント>
・喉頭気管に浮腫がある、腫脹が中等度~高度、呼吸困難感がある、呼吸促迫がある
→入院して経過観察するのがベター
・入院するほどの症状でもない場合→数時間経過観察・改善傾向にある場合→帰宅可能

<アンケート結果添付予定>
今回のアンケートには107名の方が参加されました(2011年12月28日現在)
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
皆さんのアンケートの結果は次の通りです、ご自身の回答と照らし合わせてみて下さい。

*病歴のみでの診断

a)扁桃周囲膿瘍 b)急性喉頭蓋炎 c)深頚部膿瘍 d)血管性浮腫

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*顔の写真を見た後の診断

a)扁桃周囲膿瘍 b)急性喉頭蓋炎 c)深頚部膿瘍 d)血管性浮腫

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*行う検査は?(複数回答可)

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*行う処置は?

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次回のEMA症例もお楽しみに。
症例の投稿もお待ちしています!

参考文献)
1) Judith E. Tintinalli : Tintinalli’s Emergency Medicine. 7th edition. Mc Graw Hill. 2011, p 181 , p 1591.
2)Clinical Dermatology. p200-p206
3)三浦智宏. 他: 頭頸部領域の血管性浮腫. 耳鼻免疫アレルギー ; 2009: 27 : 1-9