2020.05.01

EMA症例108:4月症例解説

 今回の症例は「耳介裂傷」でした。
 187名以上の方にご回答いただきました!
 ありがとうございます!!

 属性は以下の通りです。

 

<設問1>
耳介裂傷の診療経験の有無はちょうど半々くらいでした。

 では早速、処置について設問2から順に見ていきましょう。

 

 <設問2>
普段行っている麻酔方法(診療経験のない方は、行いたい麻酔方法)を教えて下さい。(複数回答可)

  局所麻酔78%、ブロック麻酔が34%と、局所麻酔を選択された方が多いです。局所麻酔は慣れた方法でとても使いやすいのですが、今回のような広範な耳介裂傷ではブロック麻酔がおすすめです。なぜなら耳介は複雑な構造をしていて、元の位置に縫い合わせることが美容的にとても重要だからです。

  局所麻酔をすると麻酔薬による浮腫で創縁が歪み、合わせるべき位置を容易に見失ってしまいますが、ブロック麻酔であれば耳介の構造を損なわず麻酔がかけられます。3,4)

 耳介ブロックにはいくつか手法がありますが、その一つの「ring block technique」をご紹介します。

 耳介ブロック~ring block technique ~ 3,4,7)

【準備物】

・ポビドンヨード
・太さ25Gや27G、長さ1.5インチ(38mm)の針
・10ccシリンジ
・1%キシロカイン
(耳介の局所麻酔は、エピネフリンの血管収縮作用で軟骨への血流が途絶してしまうためエピネフリン非含有のキシロカインを使用しますが、ブロック麻酔ではエピネフリン含有・非含有どちらでも構いません。)


【手技】

1. ポビドンヨードで消毒する
2. 耳の下方1cmから針を穿刺し耳の後ろの乳様突起上で針を進め、 逆血がないことを確認してキシロカイン2~3cc注入しながら針を引いてくる①。針は皮膚から抜ききらないで耳の前方に向け直し、今度は耳珠に向かって針を進めキシロカイン2-3ccを注入しながら針を引き、今度は抜ききる②。
3. 同様に耳の上方1cmからも後方・前方へとキシロカインを2~3ccずつ注入する③〜④。
4. 麻酔が効くまで10分ほど待って処置を開始する。

 

 図1 耳介ブロック「ring block technique」(文献8の図を一部改変)

 

 ring block techniqueで大耳介神経、小後頭神経、耳介側頭神経に麻酔をかけることで、図2のように耳甲介と外耳道(青色の領域)を除く耳介全体に麻酔がかけられます。



 

 図2 耳介の神経支配 (文献5の図を一部改変)

 

 

<設問3>
わずかにフラップ状になっている皮膚があります。どうしますか。

1. デブリードマン
2. 位置を合わせて縫合し極力デブリードマンは行わない
3. その他(自由記載)


 デブリードマンが34%、極力デブリードマンしないが65%という結果でした。

  正解は「皮膚のデブリードマンは極力しない」です。

  耳介裂傷の縫合のポイントのひとつは、露出した軟骨を完全に皮膚で覆うことです。軟骨を露出したままにすると軟骨炎を起こしてしまうからです。耳介は皮膚に余裕がないためデブリードマンをすると完全に軟骨を覆えなくなることがあります。なので、極力皮膚のデブリードマンはしないでおきましょう。2,3,5,8)

  耳介は血流の多い組織でもあるため、フラップ状になっていても丁寧に合わせて縫合すれば壊死に至る心配はほとんどありません。6)  万一、既に皮膚の欠損があって軟骨が覆いきれない場合には、5mm以内であれば軟骨を切除しても整容性や機能性に問題はないとされています。2,3,4)

 

 

 

<設問4>

まず縫い始める場所はどこですか。

 

1. 耳介軟骨
2.   耳介軟骨膜
3. 耳輪の端
4. 耳甲介
5. その他(自由記載)


 皆様の回答は、耳介軟骨37%、耳介軟骨膜13%、耳輪の端38%、耳甲介10%と割れていますね。

 推奨される方法は「耳輪の端」です。先程も述べたように、耳介縫合では整容性に気をつけなければなりません。耳輪の端の縫合を後まわしにすると下の絵(右)のように位置がずれて耳輪に段差ができてしまいます。なので、耳輪の先端をkey sutureとして真っ先に縫合し、確実に位置合わせをしましょう。その後、軟骨膜・軟骨、残りの皮膚の順に縫合をすすめていきます。6)



図3

 

<設問5>
軟骨は縫合しますか

1. する
2. しない
3.その他(自由記載)

 
 皆様の回答を見てみると、する42%、しない56%と割れています。軟骨はテンションがかかると裂けやすい組織なので 、理想的には軟骨そのものではなく軟骨外層の軟骨膜を縫合することを心がけたいところです。4)

 ただ実際にはなかなか難しく軟骨を縫合せざるを得ないことがあります。なのですこし意地悪でしたが、する・しないのどちらも正解です。

 軟骨や軟骨膜の縫合には6-0モノフィラメント吸収糸を用います。5) モノフィラメントにすることで炎症が起こりにくく創がきれいに治ります。1) 深部に残った糸は異物となり感染のリスクがあるため、軟骨・軟骨膜縫合は位置合わせのみ、最小限にしましょう。

 参考までに、皮膚は5-0または6-0非吸収糸を用いて2~3mm間隔で結節縫合します。1,4)

 

<設問6>
縫合後の処置はどうしますか

1. 軟膏塗布・ガーゼ保護
2. ボルスター固定
3.   その他(自由記載)

 

 
 固定法は大きく2種類に別れました。1つは圧迫しない固定(軟膏塗布・ガーゼ保護、軟膏を塗らないガーゼ保護)、もう1つは圧迫固定(ボルスター固定、アルフェンスで挟む、ガーゼ+包帯でハチマキのようにして固定)です。圧迫固定を選択された方は、耳介血腫の予防を想定していると思われます。

 今回の症例では来院時点では耳介血腫の合併はありませんでした。耳介裂傷で血腫予防の圧迫固定が効果的というエビデンスはないため圧迫固定は必須ではありませんが、血腫ができると治癒過程で耳介の変形(カリフラワーイヤー)を起こし得るため時間に余裕があれば圧迫固定を考慮しても良いかもしれません。

 圧迫固定の1つの方法、ボルスター固定を紹介します。

 

ボルスター固定 2,3)


1. 滅菌ガーゼの中心をくり抜き、クッションのように耳の後ろ側に置く。
(高さを調整することで上から包帯で圧迫した際の耳の痛みが軽減する。)

 


2. 綿球に少量の生理食塩水を含ませたものを耳介の形に合わせて詰め込む。

 


3. 耳全体を滅菌ガーゼで覆う。

 


4. 耳と頭を包帯でしっかりと固定する。

 

~Take home message~

耳介裂傷では・・・

・広範な裂傷の場合はring block techniqueをつかって麻酔をしてみよう。

・デブリードマンは最小限にして、軟骨は確実に皮膚で被覆しよう。

・耳輪の端から縫い始め、縫い終わりに段差ができないようにしよう。

・縫合後、時間に余裕があればボルスター固定など圧迫固定をしてみよう。

 


 参考資料

1) Osetinsky, et al. Sport Injuries of the Ear and Temporal Bone. Clinics in Sports Medicine, 36(2), 315-335.
2) Daniel J Brown, et al. Advanced Laceration Management. Emergency Medicine Clinics of North America, 25(2007), 83-99
3) ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード Wounds and Lacerations Emergency Care and Closure Fourth Edition. 77-78,168-170,293-294
4) Christopher H. Williams, et al. Complex Ear laceration. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2020 –2020 Feb 7
5) Ear Anatomy Ghada M Wageih Felfela* Faculty of Medicine, Cairo University, Egypt Submission: February 04, 2017; Published: February 23, 2017
6) 外傷処置・小手技の技&Tips はやく,要領よく,きれいに仕上げる極意 改定第2版. 114-115
7) Riviello RJ, Brown NA. Otolaryngologic procedures. In: Clinical Procedures in Emergency Medicine, 5th edition, Roberts JR, Hedges JR (Eds), Saunders Elsevier, Philadelphia, PA 2010. p.1187.
8) Martinez NJ, Friedman MJ. External ear procedures. In: Textbook of Pediatric Emergency Procedures, 2nd edition, King C, Henretig FM (Eds), Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, PA 2008. p.593.