2019.09.26

EMA症例100:8月症例解説

指輪の外し方

指輪が外れないという訴えはER診療に携わっていれば年に数回は出会う愁訴であると思います。今回の症例のように取るのに難渋するケースに遭遇した経験をもつ人も多いのではないでしょうか。
短い期間であったにもかかわらず180名近くの方にご回答頂きました。本当にありがとうございます。みなさん小ネタ好きですね!
今月の症例を通して指輪の外し方をおさらいし、難治(?)症例に対する対応を学びましょう!

指輪が抜けなくなる機序

まず、指輪が抜けなくなるには下記のような原因があると思われます。

①指輪そのものが細いためPIP関節部分を超えない
②指の浮腫が生じて指輪が通りにくくなってしまっている

極論すれば原因は上記の2つに集約されます。
小さな指輪を無理やりはめて抜けなくなった、というのは純粋に①の原因だけですし、上肢の外傷後に指輪を取っておかなかったために抜けなくなってしまった、というのは純粋に②の原因によると思われますが、今回の症例のように多くはこの2つの原因が複合したものです。

基本的な指輪の抜き方

1問目の解答結果です。

指輪が抜けなくなったときにまず試みる方法について、2/3の方が「タコ糸を巻きつけてスライドさせる」という回答でした。

タコ糸を指輪の下に通したあとにPIPの遠位まで隙間なく指に糸を巻き付けます。そこから指輪側の糸を引っ張って取っていくとPIPを超えられるというものです。これは主に①の原因が強い場合に有効です。
古くから報告のある方法でYouTubeなどでも取り上げられております(例:https://www.youtube.com/watch?v=kGGwX2lY4rc)ので、この方法を試したけどうまく行かなかったという受診も増えているように感じます1)。失敗の原因としては、糸を密に巻けていないが故に浮腫がコントロールできていないということがあるため、家で失敗していても医療者がするとうまくいく、ということもよく経験します。

駆血帯を巻くという方法を10%程度の方からあげていただきました。
こちらは主に浮腫が強い場合、②が原因の主体となっている場合に有効かと思います。
隙間なく、強く巻けば驚くほど指が細くなりますので一度試す価値はあると思います。駆血帯でなくペンローズドレーンを使用する方法など、要するにある程度太くて弾力がある素材なら何でも良いようです2)
駆血帯を巻いて更にマンシェットで締め上げることで浮腫がとれるという応用編も知られています3)

①ゴムバンドを指先から指輪までグルグル巻いていく (採血につかう駆血帯がおすすめ)
②肩より上に指を挙げておく (アイスパックで冷やすとなお効果的)
③15分後、血圧計のマンシェットを巻いて250mmHg程度に膨らます
④ゴムバンドを外すと浮腫がとれて指が細くなっているので指輪が外れる

ただ、前述したように原因は複合的な場合が多いので、この2つの方法を同時に行う、つまり駆血帯で巻いて浮腫をとってからタコ糸で取るという方法が、ERの手技で参考になる「Roberts and Hedges’ Clinical Procedures in Emergency Medicine and Acute Care, Chapter 36」に掲載されています。ぜひ目を通してみてください。

他にもワセリンで滑らせるという方が3割程度いらっしゃいました。これで抜ければ痛みも手間も少ないので、満足度は高そうです!

上記の方法がうまく行かなかったときにどうするかというアンケートですが、実に様々なアイデアを寄せていただき本当に勉強になりました。
基本的には指が虚血に陥っている場合は緊急性が高いため、指輪の温存を目的とせず、指輪の切断を優先して選択されると思われます。

アンケート結果です。

必ず上記の方法で取れるという達人も10%いますし、他の切断デバイスを用意しているという充実した病院も8%程度であるようです。過半数の意見としては概ね8割の方がリングカッターで切る、と回答してくれました。また、歯科へ紹介という方も5%おりました。歯科ではダイヤモンドカッターがあり、それを用いた指輪の切断を依頼すると応じてくださる歯科医院もあるようです。近隣歯科医院とぜひ連携を模索してみてはいかがでしょうか。

他にも
・手技には痛みを伴うので指ブロックで麻酔をしてやると成功率が高い
などのTipsを頂きました。
ありがとうございます!

指輪が抜けない場合の様々な手技や取るべき手段の順などが参考文献 4)に詳しくまとまっておりますのでぜひご活用ください。

さて、本症例に戻ります。
本症例ではリングカッターで切れなかったことを想定しましたが、実はタングステン製であることにヒントがあります。

タングステンは非常に硬い素材であるため、抜けなくなったときに切ろうとしてもかなり困難であることが知られています。硬さはダイヤモンド並だそうです。
しかし一方でガラスに近い性質をもっているため、圧をかけると割れやすいという特徴があります。そのためプライヤーなどの工具で挟み込むと、ドリルやカッターでも切れなかったタングステンを割って破砕することが可能です5)
この方法もYouTubeに載っていますので参考にしてください。(https://www.youtube.com/watch?v=MVNZmAeAbBs)

 

この方法を採用した場合、粉々になった指輪の破片で皮膚を傷つける可能性があり、事前に患者に説明しておく必要があるので注意しましょう。また、破片が飛ぶ可能性があるので術者は必ずゴーグルの着用をするようにしましょう。

今回は外れない指輪に対する対処法を学びました。全ての困った患者に対応することが求められるER医として、スムーズな方法を身に着けられるといいですね!

まとめ

・指輪の外し方は、破砕や切断ではなく、破壊しない方法がいくつかある。
・切断はリングカッターの他、歯科医に依頼する選択肢もある。
・タングステンの切断は非常に困難だが、圧による破壊は比較的容易である。

参考文献

1)  Am J Surg. 1986 151 412
2)  Am J Emerg Med. 2007 25 722
3)  Am J Emerg Med. 1995 13 318
4)  Am J Emerg Med. 2013 31 1605
5)  J Emerg Med. 2012 43 93