2020.01.17

EMA症例10:11月症例解説

皆様、いかがでしたでしょうか?

若林先生のコメントは正確かつ重要な情報が豊富ですね。ありがとうございます。循環器の先生ながらこのように見識が深いとは恐れ入ります。

この患者さんの経過を少しだけ述べましょう。まず、この患者さんは簡単に撮れる頭部CTに行きました。以下がその患者さんの頭部CTです。

CT

PRES-CT

心電図で左心肥大所見以外は異常なく、心筋酵素や胸部Xpも問題ありませんでした。軽度の急性腎不全を認める以外は生化も異常ありませんでした。血圧管理のためにラベタロールがあまり効果なかったのでニカルジピンが合わせて開始され、ICU入院となりました。入院後頭部MRIが施行され、以下のような所見が認められました。数日以内に症状が改善して、入院後5日目に退院となりました。

MRI

PRES-MRI

この患者の最終診断はPRES(Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome)もしくは、RPLS(Reversible Posterior Leukoencephalopathy Syndrome)です。日本語では、可逆性白質脳症です 。私は最初聞いた時にプロレス技かと思いましたけど、ここ最近画像が発達したためか比較的よく見かける疾患です。広く知れ渡ったのは1996年のNEJMの論文です。

簡単に言えば、高血圧緊急症の一種ですね。たまたま同じような症状で来院した患者のMRIをとったら、似たような所見があったという感じでしょうか?では、PRESのポイントをまとめておきましょう。

頻繁に認められる順として痙攣、 視覚障害、頭痛、 意識障害、嘔吐など中枢神経由来の症状が挙げられます。
血圧は上昇しているが、絶対的な数値はありません。
リスクとして、急激な血圧上昇、妊娠、免疫抑制剤、腎不全、自己免疫疾患などが挙げられます。
CTの感度は50%なので除外検査としては弱いが、最初の検査として有益です。
MRIの典型的な所見としては、90−98%に後頭葉から頭頂葉にかけて高信号域(T2/Flair)がありますが、実際は脳のどこでもこの所見は起こりえます。
降圧治療によって治療します(ニトログリセンは避ける)。また、それぞれの病態に合った治療を考慮(免疫抑制剤/化学療法の中止、妊婦での出産/マグネシウム)。
予後は一般にとても良く3-8日で症状は改善します(画像の改善はもっと遅れる)。

さて降圧薬の選択ですが、PRESでは基本的に静注薬を用います。ニトログリセンによって病態が悪化したとの報告があり、推奨されていません。また、第1選択薬なる降圧薬のエビデンスはありませんので使い慣れたものを使うのが無難でしょう。収縮期血圧が160以上で治療開始するという専門科もおり、目標血圧は他の高血圧緊急症と同じくMAPを20-25%低下させることを目指すのがよいと言われています。

アンケートを答えてくださった皆さん、ありがとうございます!計33名の方が参加してくださいました。では、皆さんの回答の集計を掲載します。皆さんのマネージメントは他の先生と比べていかがでしたでしょうか?

1)どういった病態か?

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2)どういった検査を行うか?

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3)どのように降圧を行うか?

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4)ずばり診断は?

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参考文献)

C Roth, The posterior reversible encephalopathy syndrome: what’s certain, what’s new? Pract Neurol 2011;11:136-144
Hinchey J et al. A reversible posterior leukoencephalopathy syndrome. N Engl J Med 1996;334:494–500.
Vivien H. Lee, Clinical Spectrum of Reversible Posterior Leukoencephalopathy Syndrome, Arch Neurol. 2008;65(2):205-210