2020.01.17

EMA症例1:1月症例解説

皆さん、さすがのコメントです。皆さんが集まったERに患者が受診できたら何と幸せでしょうかね。

その後の経過をお話しさせていただきますと、この患者さんは頭部CTにて異常なく、症状がかなり改善したので帰宅となりました。しかし、帰宅してから再度頭痛が悪化したので、ERに再来。この時点で入院となりました。LPが施行され、Cryptococcal Meningitisと診断(CSF所見は以下の通り)されました。抗真菌薬が開始され、後遺症なく退院できました。

CSF:

WBC 155 (neut 44%, lymph 28%, mono 28%), RBC 22, protein 155, glucose <5

グラム染色:++WBC, +yeast

Crypto-Ag serum+/CSF+

さて今回の症例では、患者さんがきちんと再来してくれたために診断がつきましたが、第1回目のER受診で診断はできたでしょうか?

ERにて「頭痛」という主訴を目の前にして、何を考えますか?ER医としては、命取りとなるものから除外していくのが大切ですね。大きく分けて、①血管系②感染症③Mass④その他(緑内障、側頭動脈炎、帯状疱疹)ですか?

今回の症例でポイントとなるのは、①ステロイド内服(免疫抑制!)②数週間という比較的ゆっくりとした発症③項部硬直なし&神経学的所見異常なし④頭部CT正常⑤症状の改善でしょうか。これらが判断に大きく影響したものと思われます。

さて、今回の症例において上記のポイントがはたして、 Cryptococcal Meningitisとして非典型だったかどうかを検討してみましょう。

Cryptococcal Meningitisは頻回にみる病気ではありませんね。そのポイントをまとめてみます。

①免疫抑制患者に最も多く見られる中枢神経の日和見真菌感染症である。

②慢性もしくは亜急性に発症することがほとんど。したがって、数週間症状が持続するからという理由で髄膜炎は否定できない。

③20%以上の患者に発熱は見られない。

④項部硬直は30%の患者にしか認められない。

⑤頭部CTはほとんどの場合正常

⑥LPにて診断:圧上昇、髄液WBC上昇(リンパ球優位)、India Ink StainはAIDS患者では>90%、HIV陰性患者では>50%で陽性、Cryptococcal Antigenが感度特異度ともに>90%

ポイントを見返してみますと、今回の患者さんは、細菌性髄膜炎としては非典型ですけど、 Cryptococcal Meningitisの典型的な症例とも言えるかもしれませんね。したがって今回の症例から学ぶこととしては:

①真菌や結核性髄膜炎はゆっくりと進行しうる(亜急性〜慢性髄膜炎)

②免疫抑制患者では発熱や項部硬直などの炎症所見が乏しい

③免疫抑制患者の頭痛ではLPの閾値をグッと下げる必要があることになります。

帰宅後のフォローなども含めて皆さんのコメントは大変勉強になりました。今後とも、多くのコメントをしてお互いを高めていきましょう!

Review Article

Satishchandra, P et al; Cryptococcal meningitis: Clinical, diagnostic and therapeutic overviews; Neurology India, Vol. 55, No. 3, 2007, pp. 226-232

文責:EMA症例IG