2022.09.24

EMA症例137:9月症例 67歳男性、過量服薬

とある平日の日中。あなたは総合病院で救急外来担当医として勤務中です。この総合病院は地域の中核病院で救命救急センターを持ち、年間およそ4,000例の救急搬送を受け入れています。
朝の勤務が始まった直後の9時に、1台の救急車を受け入れました。

67歳男性
主訴:過量服薬、全身倦怠感と嘔気

現病歴:
朝起きてこないため妻が様子を見に行ったところ自室でぐったりしていた。床には薬剤のPTPシートが散乱し、嘔吐の痕もみられた。本人が「今朝6時頃に処方されている薬をたくさん飲んだ」と話したことから、妻からの救急要請に至った。
9時の来院時点で、症状は全身倦怠感と嘔気のみ。救急隊による捜索では、以下の薬殻が確認された。

・メトホルミン塩酸塩錠(500mg) 40錠
・メトホルミン塩酸塩錠(250mg) 40錠

本人や妻からの情報と照らし合わせても、これら以外の服薬や飲酒は無い。処方量としては20日分に相当する。定年退職後、何事にもやる気が出ず自室に引きこもりがちであった。最近は「このまま生きていても仕方ない」とこぼすことが多かった。

アレルギー:特になし
既往歴:高血圧、糖尿病
薬歴:アジルサルタン/アムロジピン配合錠、メトホルミン塩酸塩
嗜好歴:喫煙歴なし 飲酒なし
最終摂食:前日の19時

バイタルサイン:
呼吸:呼吸回数21/min, SpO2 97%(R.A.), 努力呼吸なし
循環:心拍数90bpm, 血圧136/76mmHg, 末梢冷感なし
意識:GCS 15(E4V5M6)やや受け答えは鈍いが見当識は保たれている
体温:腋窩温36.3度

瞳孔:左右4mm同大で対光反射は迅速
胸部:呼吸音に異常および左右差なし
腹部:腸蠕動亢進あり、腹部圧痛なし
皮膚:皮疹なし、発汗はそれほど目立たない

来院直後(9時)の動脈血液ガス分析(room air):
pH 7.36, PCO2 35.2 Torr, PO2 76 Torr, HCO3 20.1 mmol/L, Lactate 1.3mmol/L, Hb 14.7 g/dL, Glucose 102 mg/dL, Na 139 mmol/L, K 3.4 mmol /L, Cl 107mmol /L, Ca++ 1.24 mmol/L

血液検査:
WBC 8100 /μL, Hb 14.8 g/dL, Plt 28.2万 /μL, BUN 21 mg/dL, Cre 0.90mg/dL, AST(GOT) 30 IU/L, ALT(GPT) 18 IU/L, LDH 210 IU/L, CK 144 IU/L, CRP 0.11mg/dL

12誘導心電図:
HR 90bpm, 正常洞調律, ST-T変化なし, QT延長なし

胸部レントゲン:
肺野clear, CP angle sharp, 心拡大なし

過量服薬に至った経緯を考慮して精神科へコンサルト。精神症状は落ち着いており、少なくとも数日以内の再企図の可能性は十分低いと評価された。本人・家族と精神科医を交えた方針検討の結果、少なくとも最初の数日間は救急総合内科での入院の方針となった。

方針を決定した10時の時点で、空床状況は以下の通りであった。
・救命救急センター:残り1床 (集学的治療が可能、2対1看護体制)
・HCU:残り2床 (救急病床として通常用いる、4対1看護体制)
・一般病棟:残り10床 (呼吸心拍モニター利用可能、7対1看護体制)
・精神科病棟:残り4床 (呼吸心拍モニター利用可能、入院棟は別棟)