2021.05.17

EMA症例121:5月症例 68歳 男性 突然のSpO2低下

とある救命救急センターで当直中.
敗血症性ショックの患者を受け持ち,集中治療室(ICU)に入室予定だがICUが満床のため,しばらくERで入室待ち・診療継続が必要となった.

【症例】
68歳 男性

【基礎疾患】
2型+ステロイド糖尿病(HbA1c  8.4%),高血圧症,慢性腎不全,アレルギー性肺アスペルギルス症,気管支拡張症

【内服歴】
インスリン自己注射,リナグリプチン,ニフェジピン,プレドニゾロン
服薬アドヒアランス不良

以前より右側有意の両下腿浮腫を認めていたが,受診前日から右下腿の疼痛・発赤が出現.受診当日より発熱・倦怠感・右下肢の疼痛の増悪が出現し,身動きが取れなくなったために救急搬送された.

●バイタルサイン
意識レベル:E4V5M6 体温:39.4℃ 血圧:91/40mmHg 脈拍数:124回/分 呼吸数:40回/分 SpO2:94%(酸素マスク 5L/分)
四肢末梢は冷たい
正常心音 心雑音なし
呼吸音 両側肺野にcrackleを聴取する
腹部 平坦 軟 圧痛なし
右鼠径リンパ節の腫大あり
右下腿の腫脹・発赤・熱感・圧痛あり
右大腿遠位1/2にも軽微な紅斑・熱感あり
右足指に白癬あり

●動脈血液ガス分析(マスク5L/分 酸素投与下)
pH:7.25  PaO2:74mmHg  PaCO2:32mmHg  HCO3:12mmol/L 
乳酸値:83mg/dL(≒9.2mmol/L) 血糖:288mg/dL
Na 138 mmol/L K 4.9mmol/L  Cl 103mmol/L 


右下肢の重症軟部組織感染症による敗血症性ショックと診断し,抗菌薬による治療を開始.

酢酸リンゲル液の輸液,ノルアドレナリンの持続静注も開始したがなかなか血圧が上がらず,乳酸値も低下しなかった.

高用量のノルアドレナリンなどの循環作動薬が必要になると予想されること,ショックに対する呼吸仕事量軽減,重症軟部組織感染症に対してICU入室後に手術が予定されていることからERで中心静脈路確保・気管挿管・人工呼吸器管理の方針となった.

エコーガイド下で右内頚静脈に中心静脈カテーテルを留置した.エコーで内頚静脈を観察時,内頚静脈は虚脱気味で呼吸変動もあった.

その後,フェンタニル・ケタミンを用いて自発呼吸を残し,ビデオ喉頭鏡を用いて気管挿管を施行した.挿管チューブは間違いなく気管に入っていることを目視し,挿管後のETCO2モニターも呼吸に合わせた波形を認めた.

数分後,SpO2が99%から急激に70%台に低下した.