2019.08.06

【寄稿】MBA取得記 〜授業内容編2〜

コーラ戦争

さて、今回はみなさんもきっと飲み比べをしたことがある
『コカ・コーラ対ペプシコーラと清涼飲料業界』HBS Case#391-179からです。

このケースタイトルにあとについているHBSとはハーバード・ビジネス・スクールの略です。
そこにストックされている秀逸なケースの中に清涼飲料業界の対立構造や世界戦略が盛り込まれています。

このケースが作成されたのは1994年ですから20年以上前になりますが古い話といっても、そこから学ぶことは今でもあるわけです。

清涼飲料の製造と流通は大きくわけて3つあります。
1.原液・シロップメーカー
2.ボトラー
3.流通チャンネル

これらを通って、最終的にコカ・コーラやペプシのブランド名で我々の口に届くようになっています。

商品だけ見ると分からないのですがコーラってコカ・コーラ(ペプシ)社が全部やっているわけではないのです。

コカ・コーラやペプシ社はあくまでも原液・シロップメーカーの1つです。
原液・シロップメーカーはその原液を、各地のボトラー会社に売って利益をあげています。

原液メーカーには他にセブンアップ、ドクターペッパー、ロイヤル・クラウン、カナダドライ、A&Wなどが当時はありました。

各社の味付けのレシピが企業秘密なのは有名ですね。

コカ・コーラのレシピは社員でも知っている人は極めて少数で、なんでもスイス銀行の金庫の中に保管されているそうです。

ボトラーは瓶詰め(缶詰)をする会社です。
コカ・コーラでは日本だと北海道、みちのく、北陸、沖縄、ジャパンと
販売エリアによってコカ・コーラボトリング会社が別れています。

これらは本社とは全く別の企業だって知っていました?
それぞれの出資が印刷会社だったり酒造だったりと母体も違っています。

それぞれのボトラー会社と世界中でフランチャイズ契約というのを結んで コーラならコカ・コーラだけをボトリングするように排他的に契約する形で成り立っています。
※同種の味でなければ他社のをボトリングを認める契約もあります

コカ・コーラやペプシのような原液メーカーは 原液を作って販売するだけでなく、広告宣伝、販売促進、市場調査などを行っています。
各地のボトラーがやらなくて済むように、その役割を行うことで原液を売っているわけです。

原液に混ぜる炭酸水や甘味料はボトラーが用意するので地域によって味が違うというのはちょっとだけ本当です。

1990年代ごろ広告宣伝競争がコカ・コーラとペプシコーラで激しく行われ「コーラ戦争」と呼ばれました。

それぞれの会社が「やっぱりコーク」「さわやかなひととき」などのCMで
広告戦略を行う一方で、ダイエット商品やカフェインフリー、フレーバーを変えたもの
などのバリエーションで似たような商品をそれぞれが開発していました。

世界市場へそれぞれが進出しましたが我々がよく目にするコカ・コーラは当時で80%のシェアですがそれは日本だけの話で、米国ではそれぞれ18%程度でした。

売上高・純利益率でいうと1990年時点で

        総売上高    純利益率
コカ・コーラ 10,236百万ドル   13.5%
ペプシ    17,803百万ドル   6.0%

となっており、圧倒的にペプシコーラのほうが高い売上高をあげていました。

さて、そのような中、課題となったのは
「コカコーラ・ペプシコーラを始めとする、原液メーカーの利益率が非常に高いのはなぜでしょうか?」という設問です。

この課題は事前学習課題として教官から提示されたものの1つです。

これに回答する方法はいくつもありますが誰しも納得できる回答を説明できるように分析を行います。

私が用いたのはFive Force Analytics(5フォース分析)というもので
1.業界内の競争、2.サプライア、3.買い手、4.新規参入の障壁の高さ、5.代替品
に分けて分析を行いました。

1.業界内の競争は世界規模ではコカ・コーラとペプシの一騎打ち状態で 広告宣伝費に対する高コスト体質になりやすく お互いが宣伝競争することで業界全体の売上が上がっていました。

2.サプライアは原材料の仕入れ元ですが 原材料そのものが安く、製造工程への投資も少なくないため 原材料費が高騰する要因がなければ原価を安く維持できます。

3.原液の買い手はボトラーですが原液メーカーであるコカ・コーラやペプシの言いなりになりやすくいわゆる下請けのため高い値段で買う圧力や排他的要素がありました。広告宣伝を原液メーカーがしてくれるため、 そのことも圧力(フォース)になっていたと推測されます。

4.原液メーカーの新規参入の驚異は当時はなく(今は清涼飲料業界だとレッドブルとかモンスターとかありますが)原液のレシピが非公開のため同じ味の再現もできないようになっていました。

5.コーラの代替品はとしてはその他の清涼飲料の開発や酒類が該当しましたが明確な情報は資料からは読み取れませんでした。

1〜4の要素すべてで原液メーカーの交渉力が強くボトラーとの関係性から原液の値段設定権を強くもっていることや安い原材料費から高い利益率をあげることができたと分析されました。

その後、設問はコカ・コーラとペプシの広告宣伝合戦を背景となった政治、経済、消費者の動向などから評価して議論を深めていきます。

最終的にコーラ戦争は(世界的には)どちらが買ったのかという設問に答えることでなぜ清涼飲料業界が発展したのかというところまで考えることになります。

他の業界のことですがこういったケースを勉強すると医療業界ではどのような5フォースが働いているか業界発展のための動きとはどのようなものがあるかと考えてしまいますよね。

授業を受けるたびに自分の施設や部門、病院、ERや救急業界のことにまで考えが及んで、こうしたら発展できるのでは?というアイディアが浮かんできます。

そんな刺激の連続となる授業内容を数%も伝えきれないのですが今回はこの辺りにさせていただきます。

オンラインの覇者 part1

さて、今回はみなさんもタイトルだけで興味が惹かれるのではないかと思う
『オンラインの覇者:バーンズ・アンド・ノーブル対アマゾン・ドットコム』HBS Case#798-063からです。

Amazonといえば言わずと知れたeコマース(オンラインで買い物をするが実際の店舗を持たない)の覇者でもありますが、その始まりは書籍限定のeコマースでした。

Amazonの創始者ジェフ・ベゾスはオンラインを用いた販売方法をどの分野で行うか2年以上かけて分析し、20以上の商品分野の中から書籍を選んだというのは有名な話です。

自分の時間を費やすのに値するものは何か?
という問いは、自分の人生使って何をしたいか?の答えでもあります。

じっくりと腰を据えて、情報収集と適切な分析、計画を行わなければ地図のない航海と同じで、先に待つ人生は座礁か難破あるのみ。

逆を言えば、しっかりとした分析と実行の先にあるのは成功だと教えてくれるのがジェフ・ベゾスが腰を据えて地道な業界分析をしていたことかもしれません。

また、この分析こそがAmazon成功の秘訣だとよく言われますが本ケースはその背景となる、当時の伝統的な書籍販売の話から始まります。

それまでの米国での書籍販売がどのように成り立っていたのでしょうか。

マーケットの大きさ(市場規模)がどれぐらいあって、競合他社の動きはどうか、どのような年代が利用していて、どのような流通経路で消費者のもとに届くかが書かれています。

本ケースでは自らが当時のジェフ・ベゾスの立場になって同じような戦略を描くことができるかと追体験するわけです。

書籍販売の流通経路は日本と海外では異なっているところがあります。

日本では出版社と出版取次業者、書店とがほぼ100%委託販売制度を行っていて、
・出版社(本を制作)→出版取次業者に本を買ってもらう→書店に本を買ってもらう
という流れがあります。

なんでそんな仲介業者の出版取次業者が必要なんだ?と思うかもしれませんが、出版社が直接書店に交渉して何冊本を仕入れたいのかという問い合わせに答えていては全国に何万とある書店に対応しきれません。

そこで地域ごとに幅をきかせている出版取次業者がその代わりを行っているわけです。

出版取次業者によっては医学書のような専門書の販路が得意なところもあれば一般誌を得意としているなど、それぞれに特徴があり、出版社はどの出版取次業者に取り次いでもらうか(多くは古くからの取引がある)を選択する必要があります。

この委託販売の利点は売れ残った本を書店から取次業者へ取次業者から出版社へ戻すことができるため、書店が在庫管理をしっかりしなくても済むようなシステムとなっています。
(このあたり詳しく知りたい方は検索してみてください)

一般的に売れ残り=損失ですので書店はその損失を回避できます。

一方で出版社側は本の値段をディスカウントしないように書店に圧力をかけることができます。

そのため本の値段は全国どこでも安くなることってないですよね。
本の値段には在庫返本のリスクも考慮されて設定されているというわけです。

大学院の受講生の中にTSUTAYAの店長をしている人がおり、この辺りの業界の内部事情を情報提供してくれました。
(MBA取得後、彼はAmazonに転職しました 笑)

話を戻します。

アメリカでは出版社が直接書店(小売業者)や消費者に書籍を売ることができました。
国土が広すぎるためかもしれませんし、日本と違って過去の取引などのしがらみが少ないのかもしれません。

内訳は小売業者(書店)へ34.7%、取次業者へ23.8%、消費者へ13.5%、学校へ21.6%、その他図書館などへ6.4%となっていました。

流通の事情が異なると販売戦略が大きく変わるため、ここをまず理解しないとケースに取りかかれません。

全国チェーンなどを行っている大型の書店では大量に仕入れることで出版社希望小売価格の44〜55%を値引きすることができました。

出版社からすると、本を書店に並べて手にとってもらわなければ売れませんから大量に並べてもらうことは本の広告にもなります。
安い価格でも大量に仕入れてくれるなら有り難いと値引きに応じるわけです。

これが規模の大きな書店や取次業者の強みです。
大量の資金をもとに安く大量購入する強さ(交渉力)があり出版社からも優遇されます。

しかも、日本と同様に委託販売方式であったため売れ残りは仕入額で返本できました。(輸送費などは書店や取次業者が負担)

この返本率は出版社にとって大きな問題で新刊本で約30%もあったそうです。

どれぐらい売れるかを考えていないのか?と思うかもしれませんが1冊の本を出版するとき、出版社は印刷業者に依頼して印刷にかけます。

1回の印刷(第一刷)の部数は2000〜5000部という単位であるため500冊しか売れなかった!となると残りは丸々返本されてしまうことになります。

出版には1刷で何部刷るかということも問題になっています。

Amazonがライバルと目したバーンズ・アンド・ノーブル社は1996年当時、世界最大の書店チェーンでした。
売上げ高は24億5000万ドル(日本円で2500億円)

日本のTSUTAYAや紀伊國屋書店は今でこそ1000億円程度ですが当時は数100億円程度の売上高でしたから当時のバーンズ・アンド・ノーブルは業界の巨人だったわけです。

バーンズ・アンド・ノーブルは全国に多数の書店チェーン店を抱え従業員は20,000人以上ありました。

超大型書店も400店舗以上あり他社の書店チェーンも買収して規模を大きくしていた時代でした。

大量に安く仕入れた本を自社の大型の倉庫で管理しそこから各店舗へ配送していました。

店舗数が多いため、部数の少ない(売れない)本も並べることができましたが返本率が高いために出版社や取次業者との関係は良好ではありませんでした。

店舗はすべて賃貸していました。

なぜそんなお金をもっている会社が賃貸なんだ?と思うかもしれませんがこれは後に会計学やイオンのような大型店舗のケースを勉強することで理解できるようになりました。
店舗や土地を購入するのは、よくある間違った戦略になります。

バーンズ・アンド・ノーブルの強みは仕入額の値引きから書店での販売額も10〜25%値引きして販売できることでした。
(このあたり日本とは違いますね)

さて、そんな中、Amazonはオンライン書籍販売を開始するのですがどのようにして巨人に立ち向かっていったのでしょうか?

長くなりますので次回は
『オンラインの覇者:バーンズ・アンド・ノーブル対アマゾン・ドットコム』HBS Case#798-063の
パート2をお送りします。