2019.04.20

【寄稿】MBA取得記 〜授業内容編〜

どんな授業が開講しているか? 〜任天堂に学ぶ〜

今回のテーマからどんな授業が開講しているのか?について
ご紹介していきます。

第1回はMBAとのFirst contactとなった「Strategic Thinking and Strategy」の授業からです。
(使用教科書:「グロービス MBAマネジメント・ブック」グロービス経営大学院 編著)

取り扱ったケースはHarvard Business Schoolでも人気の
『パワープレイ(A):任天堂と8ビット・ビデオゲーム』HBS Case#795-102から。

いきなりの題材が安藤のようなテレビゲーム世代にはたまらない任天堂のファミコンの躍進のヒミツからでした。

世界中の子供たちを魅惑し圧倒的な支持を得、子供のライフスタイルをも変えてしまった任天堂のファミコン(海外ではNESという名前)。一躍世界市場を制覇し、かつ競合の参入を湯すさなかった成功理由を戦略の観点から議論していきます。

戦略思考とは何か?を考えることが目的となったケースではファミコンが成功した理由を
・消費者の視点
・ハードウェアの視点
・ソフトウェアの視点
・ビジネスパートナーの視点
・競合の視点
など様々な視点から考えます。

ここで大切なのは、1つの事例を様々な視点から分析するということになります。
ついつい消費者目線で解答してしまいそうですが実際にファミコンの本体やソフトを製造しているメーカーではそこで働いている人もあり、その販売に関わる小売店や他の競合メーカー(セガなど)も市場にはいます。

市場にかかわる全てのプレーヤーの目線が分からないとどこに成功要因が隠れていたのか、それはどのような戦略にもとづいていたのかが分かりません。

最初の授業で教授から第一声問われたのは「もしあなたが城主であったら、城下町で火事がおきたときにどうしますか?」ということでした。

みなさんならどうするでしょうか。

現場を見に行かないと実態が掴めないからと火事の起きている現場に行くでしょうか。(いわゆる現場主義)

それとも、火事を消すための設備や水の確認をするでしょうか。

人を集めるでしょうか。(BLSの最初のように)

答えはいずれもNo!でした。

城主であるなら、最初にするべきことは城の中の最も高いところに上って全体を把握せよ というのです。

自分が経営者であれば、まずは全体を把握しないことには水や消火設備、人材という限られた資源(リソース)を適切に使う戦略が立てられないというのが理由です。

現場に城主が行って火消しをすれば時代劇のようなヒーローのように感じますがおそらく城主のもとへは多くのリソースが割かれその場の消火はできるかもしれません。

しかし放火犯が逃げ回って他に火をつけていたら他の場所の火事に気付くのが遅れ被害を広げることになってしまいます。

全体を把握するためには、常に俯瞰的にものごとを見れるようにならなければなりません。
そのためには、関係するあらゆる人の立場になって物事を見て考える目線が必要だということを学びました。

これは言葉で言うほど簡単ではなく実際には細かい事実までケースの中から拾い上げることになります。
把握に漏れがあったままの立案は不測の事態を招きかねないからです。

MBA取得までは、ケースの中から事実を細かく拾い上げることを何度も繰り返し、徹底した全体の把握と分析を繰り返していきます。

そして、それらの事実から任天堂がハード製造会社、ソフト開発会社、小売店、競合会社に対してどのような戦略をとっていたのかを分析しどこに成功要因(Key Success Factor:KSF)があったのかそれぞれのプレーヤーがその戦略をどう思っていたのかまで掘り下げていきます。

こうやって事実を徹底的に掘り下げること(深掘り)を行いなぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜと繰り返してその根底にどんな戦略思考があるのかを学んでいきます。

セガと3DOに学ぶ

授業で扱われるケースの中には、続きの話として連続したストーリーが描かれることがあります。
『パワープレイ(A)任天堂と8ビット・ビデオゲーム』の続きは 
『パワープレイ(B):セガと16ビット・ビデオゲーム』HBS Case#795-103
『パワープレイ(C):3DOと32ビット・ビデオゲーム』HBS Case#795-104
の2つのケースが続いています。

日本では8ビット・ビデオゲームはファミコン
16ビット・ビデオゲームはスーパーファミコンVSメガドライブ
32ビット・ビデオゲームはプレイステーションVSセガサターン
といったところが有名ですが、世界では少し情勢が違っていました。

16ビット・ビデオゲームでは、実は世界ではメガドライブ(英名ジェネシス)がスーパーファミコン(英名SNES)を凌いだのでした。

この時点で、そうだったの?と思いましたが日本で勝って世界で負けたというのが海外での任天堂に対する認識のようです。

ここで登場するキーワードは「競合」です。
競合とは同じ市場で競い合う相手という意味ですがどの市場をとるかで競合相手というのは変わってきます。

ここはビデオゲーム市場ですので比較的単純ですが市場をとり間違えると失敗をしてしまいます。

16ビット・ビデオゲーム市場ではNECがPCエンジン(英名ターボグラフエックス16)をセガがメガドライブを市場に出してきました。

NECは言わずと知れた大手家電メーカーです。
日本製のパソコンといえば昔はPC-88やPC-98といったNEC製のものが圧倒的に有名でした。

任天堂ももとはカードゲームや玩具のメーカーですから他の市場からビデオゲーム市場に参入したことになりますがファミコンの成功を目の当たりにしたNECは半導体の製造やオーディオ、ビデオの専門技術を有し任天堂とは異なる販売網(主に家電やNECの直販ストア)を強みにしています。

セガはもともとは米国人起業家のDavid Rosenが東京で娯楽機器の輸入をしていた会社でした。
ゲームセンターの業務用ゲームに強く業界のリーダーでした。

実はセガには8ビット・ビデオゲームとしてマスターシステムという製品がありましたがそれほど売れませんでした。

こういった具体的な情報がケースには描かれています。
その業界に詳しくない人でも分かるように詳細に描かれるようになっています。

16ビット・ビデオゲーム市場ではこの3者が競合して争いました。

32ビット・ビデオゲーム市場となると様々なビデオゲームが市場に参入してきます。

任天堂の64(本当は64ビット)、セガのスーパーメガドライブ32X、ソニーのプレイステーション、アタリのジャガー、そしてケース(C)の主役である3DOが登場しました。

3DOのことをよく知らない方も多いかと思いますが3DO は派手に登場して、その後大失敗したことでケースに登場しています。

なぜ3DOは失敗したのか?

ケースでは成功要因(KSF:Key Success Factor)が描かれることが多いのですが失敗ケースも登場します。

詳細はケースに任せるとしますが3DOは他の競合とは違う戦略をとりました。

日本では松下電機がライセンスをもっていましたので商店街にあるNationalのお店などで販売されました。

しかし、コンセプトがビデオゲームというよりホームエンターテイメントに注力した家電製品という位置づけであったことなどがどの市場にも中途半端になってしまい、やがて消えていくことになりました。

製品力や、パートナー企業では他の競合を圧倒したにも関わらずです。

市場を分析する方法としては一般的に
3C(company,customer,competitor)分析
4P(Product,Price,Place,Promotion)分析
5F(five force)分析
がよく使われます。

こういった手法をフレームワークと呼びます。

少し検索すると、すぐに出てくるものでビジネスマンなら誰しも知っているものかと思われるくらい有名です。

市場を多面的に分析し把握し整理することが重要と言われます。


ウォルマートストアーズの戦略

さて、今回は『ウォルマート・ストアーズ』HBS Case#794-024 のケースから寄稿いたします。

ウォルマートという名前を聞いたことがない人もあるかもしれませんが、つい最近、新聞記事を賑わせましたね。

西友(九州ではサニー)はもともと西武百貨店グループでしたがバブル崩壊で子会社が多額の不良債権を抱えてしまい、2002年に世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートに売却(資本提携し傘下に入る)されています。

その西友をウォールマートが売却しようと検討しているという報道が流れました。
https://hbol.jp/170492

1962年に米国の片田舎で創業したウォルマートは、売上額世界最大の企業にまで成長します。
そこにはどのような戦略があったのでしょうか。

◯田舎ドミナント戦略
ウォルマートがまずとったのは、ディスカウントストア業界で地域における独占的な店舗展開を行いました。

アーカンソー州、ミズーリ州、オクラホマ州の農村地域で出店を重ね1970年には30店舗にまで増えていました。

都会にはブランド力もあり規模の大きな競合相手(百貨店や専門店)が多数いますから競合相手の弱く少ない田舎で出店を重ねることで地域における独占力を獲得しようとしたのです。

こういった戦略をドミナント戦略といいます。

店舗が近くにあるということは、物流コストの削減や在庫リスクの低減、人員の効率的な配置、大量購入による仕入れ価格の低減といったメリットがあります。

◯EDLP エブリデイ・ロープライス戦略

価格設定についても強いこだわりを持っていました。
ブランド商品を百貨店や専門店よりも安い価格で提供するというものです。
毎日が安いために、わざわざ広告宣伝を行う必要がありません。

競合ディスカウントストアの広告宣伝費が2.1%に対してウォルマートは更に低い1.5%でした。

また、顧客志向に合わせて「満足保証」と銘打ちどこでも何の質問もせずに返品を受け付けています。

そういった中でも、「バイ・アメリカン計画」でナショナルブランド戦略をとり、外国製品を米国製品に置き換え、自国の41,000人以上の雇用を創出しています。
同時に、卸業者などとの競争力を高めて、購買力(安く買う)を強めています。

◯リースによる固定費削減戦略

ウォルマートの店舗は70%がリースで、自社保有は30%しかありません。
店舗や土地は購入するもの、ではなくリースによって運営しているのです。

リースにするメリットは多数あります。
・1店舗に対する初期投資が少ない
・初期投資が少ないため店舗拡大スピードが早い
・撤退も早くできる
・固定資産税などの税制面で有利
・固定費を変動費にできる

人件費や土地・建物にかかる費用のことを固定費といいます。
一方で、材料費やリース代など規模に応じて変動する費用を変動費といいます。

経営面での定石は、固定費をいかに変動費にするか(固定費・変動費比率の低減)です。
固定費を抑えて、変動費を高めると損益分岐点が経営上有利になります。

※損益分岐点については、またファイナンス関連の授業で扱いますので後述とします。

損益分岐点を超えた部分は、まるまるその企業の利益になりますから
成長する企業にとって固定費の変動費化はとても重要な戦略です。

◯その他の戦略

他にも電子式スキャナや電子データ交換システムによる在庫管理や、
ハブ・アンド・スポーク型といわれる二段階式物流ネットワークによる物流の集約化、
店長に大きな裁量券を与えて店舗ごとの競争力を高めるモチベーション向上の仕組み
などなど多数の戦略をとっています。

◯戦略の定石

ウォルマートがとった戦略は多数ありますが
総じていうとコストリーダーシップ戦略ということができます。

EDLPによる低価格化を実現するには、規模を大きくして全体の効率化を図ります。
生産量が増加すればするほど、1店舗あたりの固定費も変動費も低減していきます。

これを「経験曲線効果の原理」といいます。http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0502/22/news112.html

規模を大きくして効率化することでさらに低価格化を実現できます。
大企業による大量生産品が安いのはそのためです。

業界のリーダーになると、コストリーダーシップ戦略をとることができ競争力が更に増します。

つまり一人勝ちの構図ができあがってしまうのです。
このコストリーダーシップ戦略にいかにもっていくかが成長する企業にとっては戦略面での課題になります。

世界最大の企業となったウォルマートもそのスタートは田舎ドミナント戦略で成長に合わせて次々に戦略を追加変更していっています。

これらの一連の流れは戦略の定石で、お手本のような成長をしているためMBAの授業では人気のケースとなっているようです。

ヨーロッパをめぐる熾烈な戦い:ライアンエア

さて、今回は
『ヨーロッパをめぐる熾烈な戦い:ライアンエア』HBS Case#700-115 のケースから寄稿いたします。

ウォルマートから戦略の定石を学んだあとは戦略理論を深掘りしていきました。

戦略の定石はコストリーダーシップ戦略のほかに
・差別化戦略
・リーダー・フォロワー・チャレンジャー・ニッチ戦略
・多角化マトリクス
・ポートフォリオ
があり、これらの組み合わせで全てカバーできます。
定石が分からないと戦略の引き出しが作れません。

それぞれについては、どこかで触れる機会があれば書きたいと思います。

定石がわかった場合は、戦略のフレームワークを用いてその戦略が正しく適応されるのかを意思決定する必要があります。

戦略のフレームワークには
・PEST分析
・5Forces分析
・3C分析
・コスト構造分析
というものが代表格です。

さて、フレームワークという言葉を聞き慣れない方も多いかと思いますが「MBAといえばフレームワーク」というぐらい、MBAでは多数のフレームワークを学びます。

フレームワークは事実を漏れなく論理的に整理し共有しながら論理的に結論を導くツールです。

戦略的思考や論理的思考の補助ツールや表現方法で多人数で議論をまとめる会議ツールとして有用です。

非常に便利なものですが使っただけで自己満足して思考停止せずツールを使うことではなく、ツールで何を表現するのかが目的です。


さて、ライアンエアーはアイルランドの振興航空会社でいまや世界で主流になりつつあるLCC(Low-cost carrier)の先駆けとなった航空会社です。

競合となるのは国営のフラッグキャリアであるエアリンガスやBA、エールフランス、ルフトハンザでそれぞれが国営の強みをいかして政府からの支援を受けていました。

フラッグキャリアには二国間の空輸を規制した協定で優先的に路線が使えライアンエアーのような新しい民間の航空会社に一見全く出番はありません。

そのような中でライアンエアーの市場参入(1985年)は成功すると思いますか?と講師からクエスチョンが投げかけられます。

受講生の中にはご当地名古屋にあるM菱重工の幹部社員もおり、闊達な意見交換がなされ賛成派と反対派に分かれます。

ここで用いられた分析はPEST分析でP(政治)、E(経済)、S(社会)、T(技術)の点から航空業界の特徴を分析します。

分析の結果、利益率が受給の変化で大きく変動しやすいこと、未開拓な路線にも需要が大きいこと、巨額の先行投資が常に必要だが設備が老朽化すること、国策や法規制が大きく影響すること、自由化や民営化の動きがあることがあげられました。

この中から自社で制御可能なものと制御不可能なものをまとめる必要があります。
自社で制御不可能なものは、設備の老朽化や国策・自由化あたりでしょうか。

さらにコスト構造の特徴を資料のデータを用いて乗客数によって変動しない固定費と変動する変動費に分けて分析していきます。

これを分析することができれば路線価をライバルに比して安く設定することで差別化戦略がとれるかもしれません。
もしくは、差別化戦略をとるためには、どの固定費を削減するかといったことが分析対象になります。
また固定費を変動費化できないかといったことも戦略的に可能です。

路線価が安くなり搭乗率が一定以上常に見込めるようになれば経営は安定します。

路線価もそれに応じた設定になるはずです。

固定費の中身は人件費、減価償却費(建物や土地)、燃料オイル費(路線の本数が同じなら固定)、機体整備費などです。
変動費は乗客が多くなれば上昇するようなものですが
航空会社ではほとんどが固定費の塊のようなコスト構造になっています。

ライアンエアーは、これらの中で人件費の削減のためにできるだけ満席で運航できるシステムを作ることで乗客一人あたりに必要なスタッフ数を削減させ、
航空機を購入ではなくリースにする(固定費を変動費にする)
機体整備費もアウトソースにする(固定費を変動費にする)
スーツケースの預け入れ最大1個まで(主なターゲットであるビジネスユースを狙っている)
などなど多数の施策を打つことで同一路線他社の約半額の路線価を達成することができました。
(コペンハーゲンからブリュッセルまで800円というチケットもあるそうな)

https://dent-sweden.com/travel-tips/airline/ryanair

これに対して他社がどのように動いてくるのかまで議論がありましたが割愛します。

コスト構造分析は我々の業界でいえば
・いかに病床稼働率を上げるか(搭乗率をあげるか)
・人件費を削減して固定費を変動費化するか(掃除や事務はアウトソースですよね)
・不要な備品を減らすか
といったことを思いつく人もあるかと思います。

これらの策にもいろいろなやり方や考え方があり他の授業内容から取り上げられたらと思います。