2020.05.26

新興ウイルス感染症流行時の医療者の心理反応〜歴史を振り返って〜

Kisely S et al. Occurrence, prevention, and management of the psychological effects of emerging virus outbreaks on healthcare workers: rapid review and meta-analysis.
BMJ. 2020 May 5;369:m1642.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32371466

過去20年間でSARS・MERS・新型インフルエンザ・エボラなどのウイルス感染症が流行してきました。これらの流行により、医療従事者には心理的な影響が認められたことが報告されています。
そこで、2020年3月までの文献から、新興ウイルス感染症の診療を行う医療従事者の心理的反応に焦点を当てた研究を選択し、Rapid review and meta-analysisという形でまとめたのが本研究になります。

COVID-19に関する文献8編を含む合計59編が対象となりました。
感染者を直接診療した医療従事者は、感染のリスクがないかほとんどない医療従事者に比較して急性ストレスまたは心的外傷後ストレス(odds ratio 1.71, 95% CI 1.28-2.29)および心理的苦痛(1.74, 1.50-2.03)のいずれも有意に発症しやすいことがわかりました。
そして、医療従事者に発生する心理的影響を増悪または寛解させる因子について調べ、それに立ち向かうための推奨が実践的にまとめられていることが特徴的です。
増悪・寛解因子、実践的な推奨について、それぞれ個人的要因、職場的要因、社会的要因とに大別されて紹介されています。

例えば、個人的要因であれば増悪因子として女性・経験年数が浅いこと・子を持つ親であること・家族に感染者がいることなどが挙げられています。
また、職場的には現実的な支援の欠如やトレーニングが提供されていないこと、社会的には偏見や差別の対象となることなどが問題です。
寛解因子として仕事から離れて休息をとること・明確なコミュニケーション、十分なPPE、適切な休息、実践的および心理的なサポートなどがあります。
介入への推奨事項として、個人的要因であれば、予防策を行う際のバディ化・仲間同士励ましあう・十分な休息をとること・ストレスの影響について振り返る機会を作ること・家族や友人からの支援を増やすことなどが挙げられています。これなら明日からできるかも!
また、職場的要因については、医療従事者に対する感染に関するトレーニングを行うことや心理的介入へのアクセスを改善すること、強制的な割り当てを避けることなどが挙げられています。
EMA文献班の仲間が働いている病院ではICU勤務とCOVID-19専用病棟の勤務を織り交ぜるなどの工夫した対応をしているそうです。

他にも見やすく表としてまとまっているので、興味を持たれましたらぜひご覧ください。