2020.05.26

N95は何回消毒・滅菌して繰り返し使えるか?

Liao L et al. Can N95 Respirators Be Reused after Disinfection? How Many Times?
ACS nano.2020 [Epub ahed of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32368894

個人防護に欠かせないN95マスクですが、資源節約のため滅菌して再利用している施設も多いのではないでしょうか。
変わりネタで化学系の雑誌から、N95マスクは何回再消毒・滅菌して使えるか? という論文を紹介します。

一般的なN95マスク直径80nmまでなら95%カットできるとされており、直径約150nmのSARS-CoV2もフィルターできるとされています。N95マスクのフィルター機能の肝は"Meltblown layer"という不織布の層だそうです。この層は物理的に密なだけでなく、中の細かい繊維が帯電することによって小粒子を通さなくするという働きがあります。マスク滅菌・消毒する際にはこの層の機能を保つことが重要だそうです。
ちなみに熱でSARS-CoV2を失活させるには70℃で5分間の加熱が必要とされているようです。

筆者らは、加熱(湿度低め)、加熱(湿度高め≒スチーム)、エタノール、塩素系製剤、紫外線、など色々な方法でN95の不織布の層を繰り返し消毒し、フィルター機能を評価しました。

結果は、エタノール、塩素系では1回で機能が有効水準未満に低下しました。加熱(スチーム)では、5回目の消毒あたりから機能が低下し始めました。紫外線は比較的耐久性がありましたが、10回程度で機能が徐々に落ちてしまいました。
一方、加熱(湿度低め)は、50回でも機能は落ちませんでした。
これらの結果から、筆者らは何度も繰り返し消毒する場合、加熱(湿度低め)を推奨しています。

加熱(湿度低め)の方法も色々紹介されていますが、「85℃・湿度30%」あたりが良さそう、とのことです。
エタノール、塩素系、スチームが良くなかったのは、不織布の層が濡れることで帯電しなくなってしまうことと関係していそうです。

今回はN95マスクから不織布の層だけを取り出して実験したようなので、実際のマスクとは状況が異なります。また、実際は唾液がついたりしておりこの消毒方法で全てのウイルスを失活できるとも限らず、すぐに現実に応用できるわけではありませんが、たまには違う趣向の文献を読んでみてはいかがでしょうか?

しかしN95の不織布層、濡らしちゃダメなんですね…。くり返し使うなら、と思ってアルコール消毒液のスプレーとか噴きかけたくなってしまっていたのは私だけでしょうか…?
ダメらしいです。気をつけないといけませんね。