2017/7/19 文献紹介

EMA文献班より沖縄県立宮古病院の山本一太です。 いよいよ暑い季節になってきました。 宮古島はマンゴーと海の季節です。当院の救急外来も観光客の方の受診が増えてきました。皆様も宮古島に旅行に来られる際には、日焼けと海の生物と泡盛の飲み過ぎにご注意下さい。 そんな重症外傷は滅多に来ない平和な宮古島から今回はFASTに関連する文献を2つお届けします!! Effect of Abdominal Ultrasound on Clinical Care, Outcomes, and Resource Use Among Children With Blunt Torso Trauma A Randomized Clinical Trial JAMA. 2017 Jun 13;317(22):2290-2296. PMID: 28609532 小児の腹部外傷患者に皆さんはFASTを行なっていますか??特に痛みを訴えておらず、血行動態が安定している場合は行いませんか?? それとも病歴、症状、所見からCTに行くか判断しているので、FASTは行わないでしょうか。 そんな疑問に対する答えの1つがこの研究です。 そもそも成人を対象としたFASTのRCTは行われてきましたが、小児を対象としたRCTは行われてきませんでした。それを反映しているためか、米国での小児外傷患者に対するFASTの施行頻度は15%未満のようです。 この研究の著者は血行動態の安定した小児鈍的体幹部外傷に対して初期評価でFASTを行うことが治療の質を高め、コストを減少させると仮説しています。FAST施行により腹腔内損傷を見逃すことなく腹部CT撮影率、救急室滞在時間、診療費を減少させるかどうかを調べることが研究の目的です。 対象患者は米国Level l 外傷センターで2012年4月から2015年5月まで搬入された18歳未満の血行動態が安定した鈍的体幹部外傷患者です。 高エネルギー外傷の患者に限られており、プレホスピタル及び来院時に低血圧、GCS<9点、腹部シートベルトサイン陽性などの所見を認める場合は除外されております。 対象患者はランダムにFASTを行う群とFASTを行なわず標準診療を行なった群に分けられました。 結果ですが、925人が両群でランダムに振り分けられ、50人に腹腔内損傷を、40人がCTで腹腔内液体貯留を認めました。 仮説に反して、腹部CT撮影率、見逃した腹腔内損傷、救急室滞在時間、入院費のいずれもFAST施行群は差を示すことができませんでした。 腹部CT撮影率の差: -2.2%; 95%CI, -8.7% ~ 4.2%, P=0.50 見逃した腹腔内損傷の差: 0.2%; 95%CI, -0.6% ~ 1.2%, p=0.50 救急外来滞在時間の差: -0.04時間; 95%CI, -0.47 ~ 0.40時間, p=0.88 入院費の差: -1180$; 95%CI, -6651 ~ 4291$, p=0.67 またCTを撮影するまでの平均時間も両群で差を認めませんでした。(FAST群 2.65時間 vs 標準群 2.54時間, 95% CI -0.20 ~ 0.42) FAST施行の前後で腹腔内損傷を疑う確率を調べたところ、FAST施行後に腹腔内損傷を疑う確率は低下していました。FAST施行後に方針を転換し、CTを撮影しなかったのは13例あり、いずれも腹腔内損傷を認めませんでした。FAST施行後に方針を転換し、CTを撮影したのは12例あり、そのうち1例で腹腔内損傷を認めました。このケースではFASTでモリソン窩に液体貯留を認めました。 Limitationが多い研究です。現場でFASTの解釈を間違えることがあると思います。著者も指摘していますが、この研究でも救急医と超音波の専門家でFASTの解釈の一致率は中等度です。 大切なのはFASTの有無ではなく、腹腔内損傷を見逃さないことだと思います。方針を転換しCTを撮影した1例は、FAST以外にCTを撮影しようと思う因子はなかったのでしょうか。もしFASTだけが腹腔内損傷に気がつかせてくれたのだとしたら、侵襲的な検査でもなく、CTまでの時間も差がないので、施行しても良いのでは!?と思ってしまいます。 Detection of pneumothoraces in patients with multiple blunt trauma: use and limitations of eFAST Emerg Med J. 2017 May 12. PMID:28500086 次はextended FAST(EFAST)の話題です。 胸部レントゲンでは認めず、CTで見つかる気胸をoccult pneumothoraxといいます。occult pneumothoraxは仰向けで撮影された胸部レントゲンではリアルタイムで外傷チームが読影すると76%に認め、後に放射線科の専門医が読影しても2-15%に認めると言われています。いずれもとても小さいか、もしくは非典型的な位置の気胸であると言われていますが、定かではありません。 2010年の米国Level Ⅰ 外傷センターでの研究では外傷医のEFASTは素早く(0.95分)、感度が高い(0.95)とされています。一方で2015年に行われた同様の研究ではEFASTの鈍的外傷に対する感度はたった0.42でした。 いずれにせよEFASTで見逃された気胸の部位やサイズに関する研究は非常に少ないです。この研究ではEFASTで見逃された気胸の特徴を明らかにすることと、気胸を予測する臨床的·患者的特徴を見つけること、特にドレナージが必要であった気胸を呈した患者の特徴を明らかにすることです。 2012年6月1日から2014年9月30日まで、スイスのLevel Ⅰ 外傷センターを受診し、EFASTと胸部CTが行われ気胸の診断となった鈍的外傷患者を後方視的に検討しています。 結果、EFAST、CTが施行された気胸患者は106人おり、EFASTで見つけることができた気胸は63人いました(感度 0.59)。ドレナージによる治療が必要であった気胸に関しては、EFASTの感度は0.81でした。 EFASTで見つけられなかった気胸の部位は、腹側(9.3% vs 52.4%, p<0.001)に少なく、肺尖部(39.5% vs 11.1%, p=0.001)や肺底部(44.2% vs 19.0%, p=0.005)に多いことがわかりました。またサイズもより小さいことがわかりました。(左側: 12.1±13.9mm vs 30.7±17.4; 右側: 6.9±10.2 mm vs 30.2±10.1, both p<0.001) EFASTで見つかった気胸でドレナージが必要だったケースは88.9%でしたが、EFASTで見つからずドレナージが必要だったケースは30.2%でした。(P<0.001) 入院時の血行動態の不安定、酸素の必要度、SpO2の値、外科的治療の必要性は両群で差を認めませんでした。 年齢や体重、受傷機転などはいずれもEFASTで見つからない気胸の予測因子とはなりませんでした。 EFASTとCTを比較しており、CT撮影よりも前にドレナージを要するような大きな気胸が含まれていないことから、EFASTの感度はこれまでの研究に比較し低くなっています。またEFASTが施行されていないことにより除外されているケースが115例あるのが残念です。 とはいえ、この研究によるとEFASTで見つからなかった気胸はサイズも小さく、部位も非典型的で、ドレナージを要する可能性も低いことがわかりました。 外傷初期診療の流れの中でEFASTは気胸の診断という点では感度は高くないかもしれませんが、見逃された気胸は血行動態に影響を与える可能性は低く、この点ではEFASTは信頼できる検査かもしれないと、結論づけられています。 7月前半の文献紹介は以上です。 これからも文献班をよろしくお願いいたします。 沖縄県立宮古病院 救急科 山本 一太

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図解心電図テキスト―Dr.Dubin式はやわかり心電図読解メソッド / デイル デュービン

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トップナイフ―外傷手術の技・腕・巧み / Asher Hirshberg, Kenneth L. Mattox

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Emergency Orthopedics: The Extremities / Robert Simon, Scott Sherman, Steven Koenigsknecht

この本も骨折・脱臼のマネジメントなどの情報が実に豊富です。 おすすめ度:★★★★★ Emergency Orthopedics: The Ext...

カラー写真でみる!骨折・脱臼・捻挫―画像診断の進め方と整復・固定のコツ (ビジュアル基本手技) / 内田 淳正 (編集), 加藤 公 (編集)

コンセプトは上述の本と一緒。疾患が1-2P毎に別れて記載されているし、和書なので読みやすい。臨床研修が始まって良い本が増えましたね。 おすすめ度:★★...

Fracture Management for Primary Care / M. Patrice Eiff MD, Walter L. Calmbach MD, Robert L. Hatch MD MPH

どの骨折にどの固定がよくて、どれくらい固定が必要とか。いつどのタイミングで整形外科にコンサルトするとか非常にわかりやすく統一した書式で書いてあります。 ...

Atlas of Normal Roentgen Variants That May Simulate Disease / Theodore E. Keats MD, Mark W. Anderson MD

小児において骨折なのか正常なのか?様々な悩ましいケースを載せています。放射線科が単純まで手の回らない日本では救急部に一つあっていいですね。 おすすめ度...

Accident and Emergency Radiology / Nigel Raby FRCR, Laurence Berman MB BS FRCP FRCR, Gerald de Lacey MA FRCR

おなじみの整形疾患の画像をまとめた本。写真も多く、読み方のポイントまで懇切丁寧。しかもポケットサイズ。 おすすめ度:★★★★★ Accident...

Essentials of Musculoskeletal Care (Essentials of Musculoskeletal Care (Griffin)) / Walter B., M.D. Greene

これも知られていない名作。アメリカ整形外科学会から、プライマリーケアで診る整形疾患がよくまとまってます。絵も多く、整形診察の手順もよくのってます。オスス...

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