EMA症例65:9月症例解説
EMA症例

 2016年9月の症例は「薬を飲んで手首を切った 40歳代女性」でした。アンケートには27人の方が回答してくださいました。ありがとうございました。解説の前にアンケートの結果をお知らせします。 まずは参加された方の内訳です、27人中12人がスタッフドクターという内訳でした。学生さんも1人参加してくださっています、ありがとうございます。 65k-01  続いては、みなさんの施設での精神科医師の勤務・対応状況を示します。回答者の施設・地域の重なりがわからないので、この結果が全国の状況を示しているわけではありませんが、時間外も精神科の先生に相談できる施設は1/3よりやや多いという結果でした。みなさん、この結果をどう感じますか? 65k-02  それでは実際の対応に関するアンケート結果です、「身体的には帰宅可能と思われるが、患者の状況が帰宅可能かどうか判断する際に確認したいこと3つまで」です。家族のサポート体制のところには、「内縁の夫を除く」と但し書きをされた方が2名いらっしゃいました。 65k-03  「身体・精神の評価を経て帰宅可能と判断したが、帰宅に際し連携を取った方が良いと思う病院外の施設・部門」です。 65k-04 <解説> 今回の患者さんは自殺企図の患者さんでした。みなさん自身で「自殺企図の患者さんが来たらこうする」という流れがあるかもしれませんし、地域や施設によって対応方法は異なるかもしれません。自殺者の40%以上に過去の自殺未遂歴があったという報告[1]や、自殺未遂者を9年以上フォローすると3~12%が自殺に至るという報告[2]もあり、リストカットや大量服薬など救急外来でよく見る自殺企図患者さんにも注意が必要です。 丁度9月は9月10日~16日が自殺予防週間でした。ここで、自殺企図の患者さんで抑えるべきことを症例の経過に沿って復習しておきましょう。 1:情報の収集と対応の注意点  まずはバイタルサインの確認など身体的な評価・治療が優先されます。身体の面が安定したらもしくは同時並行で、精神科的側面の病歴聴取を行います。特に確認をしておきたいポイントを(表1)に上げます[3]。こちらは精神的な評価の際に、帰宅が可能かどうかを判断する上で重要となります。 65k-05  また、情報収集をするときの対応も重要で、「TALK」の原則(表2)に沿って進めていくのが望ましいとされています。死についての話題は避けがちですが、患者から「死にたい」と言われたら「死にたかったのですね」と反復するなど、真摯な態度で耳を傾けることが重要です。 65k-06 2:自殺リスクの評価  自殺リスク(再企図)の評価は今後の対応において非常に重要となります。今回のエピソードが自殺企図によるものであったのか、またその理由・背景を確認していきます。「眠ってしまいたかった」と表現される場合でも、「死に至る可能性を考えていたか」を確認し、そうである場合は自殺企図として対応する必要があります。  また、診察をしている現在でも希死念慮が残存しているか、今回のことを後悔しているかを確認することも重要です。後悔をしていない場合は、再企図の可能性が高いといえます。  自殺リスクの評価法の一つとして「SAD PERSONS スケール」(表3)[4][5]や「Modified PERSONS スケール」があります[6]。どちらも精神科専門医でなくても行える方法として知られており、「SAD PERSONS スケール」では各項目を1点として点数が高いほど危険性が高いといわれています。 65k-07 3:精神科にどうつなぐか  自殺企図者は何らかの精神疾患に罹患している可能性が高いため、救急外来での診察後いかに精神科につなぐか、が重要となります。 身体的に問題がないと判断された場合、施設内に精神科医がいる病院であれば、可能な限り精神科コンサルトをして帰宅可能の判断を仰ぐ方が望ましいです。とはいえ、精神科医のいない病院、いても常に相談できない病院もあり帰宅の判断・その後のフォローが悩ましいところです。 帰宅の判断に慎重となる状況としては1)希死念慮が残存している、2)今回の自殺を後悔していない、3)「もう自殺をしない」という約束に応じない、4)自殺企図を頻繁に繰り返している、5)不安や幻覚妄想が強い、6)見守る家族がいない、などが言われています[3][7]。これらの状況がある場合は、このまま帰宅をさせず精神科入院のある施設に紹介する、夜などで難しい場合は自施設で入院とし翌朝精神科・心療内科を受診してもらう、などの対応が必要となります。 4:帰宅させるときの注意  帰宅が可能と判断された場合でも、精神科や地域のサポートを受けられるような対応が必要となります。かかりつけ医が存在する場合は、速やかに受診をするよう促し、患者家族の同意が得られるのであれば連絡を入れておくと、万が一患者が受診をしなかった場合でも連携が可能となります。かかりつけ医がない場合は、近隣の施設を紹介することになりますが、精神科受診のハードルは他の科と比べて高いため、本人だけでなく家族にも精神科受診の必要性を説明する必要があります。  また、患者が自殺の動機となりうる心理社会的な問題を抱えている可能性もあります。その際は、その問題の解決が重要となるため、ソーシャルワーカーや適切な公的機関に紹介するということも、医療スタッフの重要な役割となります。各自治体に相談窓口があり「自殺総合対策推進センター」のHP上に都道府県別に紹介されています(精神保健福祉センターや保健所に設置されていることが多いです)。また厚生労働省の自殺対策のHPには悩みに応じた相談窓口が紹介されています。  当然のことながら、身体的・精神科的な評価と治療を行いながら心理的・社会的側面にも介入することは医師だけではできません。ほかの疾患にも増して、看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーなどコメディカルの力を借りて対応をする必要があります。  自殺未遂者への対応については、2009年に日本臨床救急医学会から「自殺未遂者への対応 救急外来(ER)・救急科・救命センタースタッフのための手引き」[9]が刊行されました(無料・pdfでダウンロード可)。日本臨床救急医学会では、対象を精神科的症状を有する患者に広げてその対応を学ぶ「PEEC(ピーク)コース」を各地で開催しています。また、日本自殺予防学会では「救命救急センターに搬送された自殺未遂者の自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントに関する研修会」が開催されるなど、様々な取り組みが行われています。 <患者さんの経過>  内服していた薬の種類は不明であったが、数は40錠ほどであることが分かった。患者から話を聞くと、内縁の夫から暴力を受けており今回も飲酒をした夫から暴力を受け、どうしようもなくなり衝動的に薬を内服したとのことであった。経過観察中に傾眠傾向となり、経過観察入院となった。  翌日、意識清明となり改めて話を聞き、希死念慮が残存していないことを確認。精神科医が不在の病院ではあるが、今回のエピソードには精神科疾患よりも内縁の夫からの暴力が原因として最も可能性が高いと考えられた。本人も夫からの避難を希望し、身を寄せる親類もいないことから警察に保護を依頼した。精神的側面の対応としては、警察から地元保健所の自殺未遂者支援担当の保健師に連絡がなされ、今後フォローがなされることとなった。 <自殺企図患者さんの診察におけるポイント> 1)救急外来の診察から次の自殺予防につなげる 2)問診をしっかり行い自殺リスクの評価を行う 3)救急外来受診から精神科診察につなげる 4)自殺企図の原因についても目を向け対応する 自殺企図が救急外来での対応にとどまらず、次の医療機関・公的サービスつなげることが重要な疾患・病態であることを学んでいただけると嬉しいです。 <参考文献> 1. Isometsä ET1 LJ (1998) Suicide attempts preceding completed suicide. Br J Psychiatry. 173: 531–535. 2. EK1. M (1997) Identification of suicide risk factors using epidemiologic studies. Psychiatr Clin North Am. 20: 499–517. 3. 日野 耕介平安 良雄 (2014) 自殺企図患者の対応のポイント. Mod. Physician 34: 217–219. 4. Patterson WMW (1983) Evaluation of suicidal patients: the SAD PERSONS scale. Psychosomatics 24: 343–349. 5. 坪井 康次 (2005) うつ状態の鑑別. 第129回日本医学会シンポジウム記録集 40. 6. Hockberger RS, Rothstein RJ Assessment of suicide potential by nonpsychiatrists using the SAD PERSONS score. J. Emerg. Med. 6: 99–107. 7. 久村 正樹堀 有伸 (2012) 自殺企図. 臨牀と研究 89: 1211–1214. 8. 自殺総合対策推進センターいのち支える いのち支える相談窓口一覧, http://jssc.ncnp.go.jp/index.php. 9. 日本臨床救急医学会 自殺未遂患者への対応 救急外来(ER)・救急科・救命救急センターのスタッフのための手引き, http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/dl/07.pdf#search=’%E8%87%AA%E6%AE%BA%E6%9C%AA%E9%81%82%E8%80%85%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C+%E6%89%8B%E5%BC%95%E3%81%8D’.

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僕のボスのWalls先生による気道確保のテキストブック。気道確保は救急医の生命線です。RSIをしっかり勉強しましょう。LEMONを知っていますか。気道確...

心エコー法・マスターガイド / 樅山 幸彦, 神野 雅史

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腹部エコー法・マスターガイド / 荒木 康之, 飯伏 義弘, 桜井 理世

薄い本だかかなり充実している。 おすすめ度:★★★★ 腹部エコー法・マスターガイド / 荒木 康之, 飯伏 義弘, 桜井 理世...

腹部超音波テキスト 上・下腹部 (Atlas Series超音波編) / 辻本 文雄, 井田 正博, 松原 馨

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Emergency Ultrasound / O. John Ma, James Mateer, Michael Blaivas

DrNobleの本もいいがこの本もなかなか。 おすすめ度:★★★★★ Emergency Ultrasound / O. John Ma, Ja...

Manual of Emergency and Critical Care Ultrasound / Vicki Noble, Bret Nelson MD, Nicholas Sutingco M.D.

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判読ER心電図: 実際の症例で鍛える Ⅱ 応用編 / A. マトゥー, W. ブラディ

『ECGs for the Emergency Physician 2』が原著です。 メリット①原著(3929円)より訳本(3360円)のほうが安い ...

判読ER心電図実際の症例で鍛える 1 基本編 / A.マトゥー, W.ブラディ

『ECGs for the Emergency Physician 1』が原著です。 メリット①原著(3929円)より訳本(2940円)のほうが安い ...

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アプローチを身につけたら、あとはひたすら演習するのが近道。 救急医は循環器医以上に心電図を読めるようにしたいですね。一冊につき200個のEKGがありま...

Marriott’s Practical Electrocardiography (Marriott’s Practical Electrocardiography (Wagner)) / Galen S. Wagner

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図解心電図テキスト―Dr.Dubin式はやわかり心電図読解メソッド / デイル デュービン

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Accident and Emergency Radiology / Nigel Raby FRCR, Laurence Berman MB BS FRCP FRCR, Gerald de Lacey MA FRCR

骨折などの単純レントゲンの読み方といったらコレ。 写真も多く、読み方のポイントまで懇切丁寧。しかもポケットサイズ。英語も簡単だから心配いらない。 お...

トップナイフ―外傷手術の技・腕・巧み / Asher Hirshberg, Kenneth L. Mattox

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創傷治療の常識非常識〈2〉熱傷と創感染 / 夏井 睦

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創傷治療の常識非常識―〈消毒とガーゼ〉撲滅宣言 / 夏井 睦

創傷治癒で有名な夏井先生の本。 すべてをこの通りにすることが正しいわけではないが、非常に参考になる1冊。 おすすめ度:★★★★★ 創傷治療の常...

ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル―すぐに役立つHints&Tips / 夏井 睦

創傷治癒で有名な夏井先生の本。 すべてをこの通りにすることが正しいわけではないが、非常に参考になる1冊。 おすすめ度:★★★★★ ドクター夏井...

写真でわかる外傷基本手技―VISUAL TEXTBOOK OF TRAUMA CARE / 益子邦洋, 松本尚

外傷手技のビジュアルテキスト。 写真が豊富でイメージしやすいのがいいけど高い・・・。ERに1冊あれば教育ツールとしていいかも。 おすすめ度:★★★ ...

JPTECガイドブック / JPTEC協議会

Pre-hospitalの標準化。 救急隊がどういった教育を受けて現場で活動をしているか理解することは非常に重要なことです。 おすすめ度:★★★ ...

外傷初期診療ガイドライン 改訂第3版 / 日本外傷学会

JATECはかなりいけています。外傷の基本です。しっかりおさえよう! おすすめ度:★★★★★ 外傷初期診療ガイドライン 改訂第3版 / 日本外傷...

骨太! Dr.仲田のダイナミック整形外科(上巻)~決定版! プライマリ・ケアのための膝・腰・肩のみかた~ケアネットDVD / 仲田 和正

上記、仲田先生のDVD。すいません、僕は彼のファンみたいなものなのです。整形はビジュアルで学ぶといいですね。教育は教科書から、こんなビデオ形式に向かって...

けが・うちみ・ねんざのfirst aid (総合診療ブックス) / 大場 義幸, 仲田 和正, 箕輪 良行

これも研修医時代に読んだ本。ちょっと古いですがやはり色々と勉強になる点が今読み返してもあります。 おすすめ度:★★★★ けが・うちみ・ねんざのf...

Emergency Orthopedics: The Extremities / Robert Simon, Scott Sherman, Steven Koenigsknecht

この本も骨折・脱臼のマネジメントなどの情報が実に豊富です。 おすすめ度:★★★★★ Emergency Orthopedics: The Ext...

カラー写真でみる!骨折・脱臼・捻挫―画像診断の進め方と整復・固定のコツ (ビジュアル基本手技) / 内田 淳正 (編集), 加藤 公 (編集)

コンセプトは上述の本と一緒。疾患が1-2P毎に別れて記載されているし、和書なので読みやすい。臨床研修が始まって良い本が増えましたね。 おすすめ度:★★...

Fracture Management for Primary Care / M. Patrice Eiff MD, Walter L. Calmbach MD, Robert L. Hatch MD MPH

どの骨折にどの固定がよくて、どれくらい固定が必要とか。いつどのタイミングで整形外科にコンサルトするとか非常にわかりやすく統一した書式で書いてあります。 ...

Atlas of Normal Roentgen Variants That May Simulate Disease / Theodore E. Keats MD, Mark W. Anderson MD

小児において骨折なのか正常なのか?様々な悩ましいケースを載せています。放射線科が単純まで手の回らない日本では救急部に一つあっていいですね。 おすすめ度...

Accident and Emergency Radiology / Nigel Raby FRCR, Laurence Berman MB BS FRCP FRCR, Gerald de Lacey MA FRCR

おなじみの整形疾患の画像をまとめた本。写真も多く、読み方のポイントまで懇切丁寧。しかもポケットサイズ。 おすすめ度:★★★★★ Accident...

Essentials of Musculoskeletal Care (Essentials of Musculoskeletal Care (Griffin)) / Walter B., M.D. Greene

これも知られていない名作。アメリカ整形外科学会から、プライマリーケアで診る整形疾患がよくまとまってます。絵も多く、整形診察の手順もよくのってます。オスス...

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