[解説] EMA症例41:6月症例 51歳男性 – 配電盤の作業中に感電して熱傷。部位は小さいけど?
EMA症例

症例いかがだったでしょうか。 回答をいただいた皆様、ありがとうございました。 皆様の見立て通り、今回は電撃傷の症例でした。 「電撃傷」とは生体内に電気が通電することによって発生する損傷の総称です。 感電、落雷、電気スパーク、溶接アーク光などによる電気的障害によって組織損傷が生じます。1) まず皆様の回答をまとめてみます。 ①この患者さんをマネージメントする際に、追加で聞きたい情報はありますか? まず「意識消失の有無」「不整脈の既往や心疾患系の既往」などが多かったです。 電撃傷といえば、まずチェックしたい不整脈を想定しての回答ですね。 次に「他の受傷部位・疼痛部位がないか」。 目立っている手の創以外にも熱傷があるかもしれませんし、転落・転倒を合併することが多いので、重要ですね。 横紋筋融解を想定した「尿の量や色」「筋肉痛や浮腫」を挙げてくださった方もいました。 ②ぜひチェックしたい所見、検査はありますか? 12誘導心電図は、皆さん当然のように押さえてくれていました。 他にも、CK、ミオグロビン、腎機能をチェックするための血液検査、流出創(どこを電気が通ったか)がどこか、他に外傷がないか体表をくまなく観察する、等を挙げていただきました。 ◆疫学 疫学的には2つのピークがあり、1つは6歳未満の小児、もう1つは若年成人です。2) 小児の場合は家庭内(電気コードやコンセント口からの感電。赤ちゃんがテーブルタップを舐めてしまった…とか。)で生じることが多く、成人では多くが職業に関わるもの(配電盤工事など)です。 ◆メカニズムと病態 電気は、電圧・電流・抵抗などによって定義され、また交流(電流の向きが周期的に変化する)/直流(電流の向きが常に一方向)の種類があります。これらの因子によって、損傷の程度や種類は変化しますが、感電が生じた際に、明確なのは電圧であるため、電圧で分類するのが一般的です。1000V以上の感電を高電圧、1000V未満の感電を低電圧と定義します。2) 損傷のメカニズムとしては、 1) 身体を電流が流れることによる直接的な影響 →心静止、心室細動、呼吸停止を生じる 2) 通電後の転落、筋攣縮による転倒などによる鈍的外傷 3) 電気エネルギーが熱エネルギーに変換されることによる熱傷 4) electroporation(電流によって細胞膜に穿孔が生じ細胞死を起こすこと) があるとされています。2) 通電部位ごとに生じる典型的な病態を以下の表に挙げ、また各々の損傷について簡単に解説します。3) a71a4831916f3024198908b95c501499 1)身体を電流が流れることによる直接的な影響 →心静止、心室細動、呼吸停止 電撃傷の15%に不整脈が生じると報告されています。一方の手から他方の手に通電した場合(心臓を通る形ですね)、心室細動が60%に生じるとされ、また交流電流は直流電流の9倍以上の危険があると報告されています。 さらに、突然の心臓死を生じる場合、「低電圧の交流電流で心室細動」が多く、「高電圧の交流電流で心静止」が多いとされています。(心室細動は40〜100Hzの周波数で最も起こりやすいとされており、一般家庭電源の50〜60Hzはとても危険なんですね。) 突然の心室細動・心静止は受傷直後に、他の不整脈も大部分は受傷から数時間以内に生じますが、稀に遅発性のこともあります。 電撃傷で、電流の皮膚流入部(接触部)にできる創を流入創といい、流出部(接地部)にできる特有の組織欠損を流出創といいます。流入部は上肢が圧倒的に多く、流出部は下肢や体幹に多いです。流入部から流出部の通電経路にあたる臓器、組織が損傷される可能性が高いですが、経路を特定することは必ずしも容易ではなく、外観上の所見が軽微でも、重症な臓器損傷は否定できないため注意が必要です。 2) 通電後の転落、筋攣縮による転倒などによる鈍的外傷 直流電流では単一の筋肉のスパズムを生じやすく、患者は跳ね飛ばされてしまうことが多いとされています。結果、電流に暴露する時間は短いが、転落や転倒による外傷を合併する危険があります。 一方、交流電流では繰り返し筋の収縮が生じます。そのため、接触した身体(手の場合が多いです)を離すことができず、電流への暴露時間が長くなり、重症となる危険が大きいです。 3)電気エネルギーが熱エネルギーに変換されることによる熱傷 電撃傷では、外表皮膚の損傷程度が小さくても、深部筋組織がジュール熱により横紋筋融解を起こすことがあるので注意が必要です。特に、骨は他の生体組織より電気抵抗が大きく、電流が流れることによって熱を発生しやすいため、長管骨の周囲の筋肉に強い熱損傷が生じ、筋の腫脹によりコンパートメント症候群が生じることがあります。また横紋筋融解から高ミオグロビン血症→急性腎不全を生じる可能性もあります。 ◆マネージメント 不整脈に対して慎重にモニタリングを行い、心電図のチェックが必要です。 熱傷や外傷に対する個別の治療を行います。 横紋筋融解や腎不全の評価のため、laboの経時的な評価も必要で、重症例では筋組織の障害によって生じる循環血液量減少、ミオグロビン血症に対して、適切な輸液管理を行う必要があります。 外観上だけでは、臓器傷害の程度が分かりにくく、予後が予測しにくいため、慎重なマネージメントが必要です。…とは言っても、電撃傷のマネージメントについて確立したプロトコルはないのですが、いくつか目安を挙げます。4) ・一般的に、低電圧(<240Vの直流という記載あり4))の感電で、症状がなく、心電図やlaboの異常がなければ帰宅可能。 ・低電圧でも、気分不良や動悸などの症状や、心電図の新たな変化があれば、少なくとも6時間のモニター経過観察を行い、再評価が必要。 ・600V以上の高電圧であれば、症状や明らかな損傷がなくても、入院が必要。 特に、胸痛、動悸、意識消失などの症状や、心電図、laboの異常があれば入院すべき。 今回の患者さんは200Vの感電、ということが分かり、高電圧ではありませんでしたが、「30秒ほど離れられなかった」という病歴は、ある程度の時間感電していたことを示唆し、念のため経過観察入院としました。入院後も症状はなく、翌日の心電図、laboで異常がないことを確認して、退院となりました。 ※雷撃傷による心肺停止の場合 電撃傷のうち、特に人への落雷による障害を雷撃傷といいます。この場合、受傷直後は蘇生率が高いことから、一度に複数の人が落雷を受けた場合には、心肺停止の傷病者から治療を開始することが、2010AHAガイドライン5)に記載されています。(通常、多数傷病者がいる場合は、心肺停止の傷病者(トリアージで「黒」の傷病者ですね)は、優先度が低くなりますが、雷撃傷の場合は特別、というわけです。 <Take Home Message> 電撃傷は、突然の心室細動や心静止が起きる危険なもの、と知ろう。 外観だけでは、臓器損傷の程度や予後が予測できない。→慎重なマネジメントを。 合併する外傷や、横紋筋融解・コンパートメント症候群に注意。 <参考文献> 1) 救急診療指針 改訂第4版 2) Narrative Review: Electrocution and Life-Treatening Electrical Injuries. Ann Intern Med. 2006; 145:531-537 3) 救急・集中治療 最新ガイドライン2012-13 総合医学社 4) Tintinalli’s Emergency Medicine 7th Edition “Electrical Injuries” 5) 2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science. Part 12. 12: Cardiac arrest associated with electric shock and lightning strikes. Circulation 122 (suppl), S848, 2010 ◆おまけに参考画像 1dfeb13f9a46f2c95ee17dddf1e5dd8ade3285081b0c9fd47ec65e8ccc81b3e0077f65d8d057bce9ff7f350123f8903d (写真左)救急診療指針1)より:こたつのコードを口に入れて感電してしまった子供です。不整脈や全身症状はなく、後日形成外科で口唇の再検が必要になったそうです。 (写真中央・右)渡瀬先生より、最近経験された電撃傷の写真をいただきました。手から腹に抜けたんですね。怖いですー(> <)

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Pre-hospitalの標準化。 救急隊がどういった教育を受けて現場で活動をしているか理解することは非常に重要なことです。 おすすめ度:★★★ ...

外傷初期診療ガイドライン 改訂第3版 / 日本外傷学会

JATECはかなりいけています。外傷の基本です。しっかりおさえよう! おすすめ度:★★★★★ 外傷初期診療ガイドライン 改訂第3版 / 日本外傷...

骨太! Dr.仲田のダイナミック整形外科(上巻)~決定版! プライマリ・ケアのための膝・腰・肩のみかた~ケアネットDVD / 仲田 和正

上記、仲田先生のDVD。すいません、僕は彼のファンみたいなものなのです。整形はビジュアルで学ぶといいですね。教育は教科書から、こんなビデオ形式に向かって...

けが・うちみ・ねんざのfirst aid (総合診療ブックス) / 大場 義幸, 仲田 和正, 箕輪 良行

これも研修医時代に読んだ本。ちょっと古いですがやはり色々と勉強になる点が今読み返してもあります。 おすすめ度:★★★★ けが・うちみ・ねんざのf...

Emergency Orthopedics: The Extremities / Robert Simon, Scott Sherman, Steven Koenigsknecht

この本も骨折・脱臼のマネジメントなどの情報が実に豊富です。 おすすめ度:★★★★★ Emergency Orthopedics: The Ext...

カラー写真でみる!骨折・脱臼・捻挫―画像診断の進め方と整復・固定のコツ (ビジュアル基本手技) / 内田 淳正 (編集), 加藤 公 (編集)

コンセプトは上述の本と一緒。疾患が1-2P毎に別れて記載されているし、和書なので読みやすい。臨床研修が始まって良い本が増えましたね。 おすすめ度:★★...

Fracture Management for Primary Care / M. Patrice Eiff MD, Walter L. Calmbach MD, Robert L. Hatch MD MPH

どの骨折にどの固定がよくて、どれくらい固定が必要とか。いつどのタイミングで整形外科にコンサルトするとか非常にわかりやすく統一した書式で書いてあります。 ...

Atlas of Normal Roentgen Variants That May Simulate Disease / Theodore E. Keats MD, Mark W. Anderson MD

小児において骨折なのか正常なのか?様々な悩ましいケースを載せています。放射線科が単純まで手の回らない日本では救急部に一つあっていいですね。 おすすめ度...

Accident and Emergency Radiology / Nigel Raby FRCR, Laurence Berman MB BS FRCP FRCR, Gerald de Lacey MA FRCR

おなじみの整形疾患の画像をまとめた本。写真も多く、読み方のポイントまで懇切丁寧。しかもポケットサイズ。 おすすめ度:★★★★★ Accident...

Essentials of Musculoskeletal Care (Essentials of Musculoskeletal Care (Griffin)) / Walter B., M.D. Greene

これも知られていない名作。アメリカ整形外科学会から、プライマリーケアで診る整形疾患がよくまとまってます。絵も多く、整形診察の手順もよくのってます。オスス...

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